vol.1 マム（菊）を主役に──9月の暮らしに寄り添う花のかたち

2025.09.04

暮life

週末に、ちいさな楽しみを。
「週末の一輪」は、日々の暮らしにそっとなじみながら、さりげない存在感を放つ季節の一輪を選び、異なる飾り方で少しずつ表情を変えながら、最後まで楽しみつくすための提案です。
月替わりで登場する第一園芸のデザイナーが、生け方の工夫や花との向き合い方をご紹介。
毎週木曜の夕方、週末の始まりに、暮らしにそっと花を添えるひとときをお届けします。

長さを生かして、凛とした姿を楽しむ

9月に入っても、日中は照りつけるような暑さが続きます。夜も涼しさにはまだ遠く、花にとっても過酷な季節。
そんな時こそ、暑さに強く、端正な佇まいを長く楽しめるマム（菊）は、頼もしい存在です。

まずは、マムの長さをそのまま活かし、茎のラインが引き立つように生けてみましょう。
セロシアやバジルを添えることで、マムの端正な表情に揺らぎが加わり、残暑の空気にすっとなじむ一輪に仕上がります。

■ メイン花材《マム・シルキーガール》
今回の主役は、うっすらとピンク色を帯びた花弁が魅力の品種『シルキーガール』。
一輪でも華やかさがあり、すっきりとした印象を空間に添えてくれます。

■ マムの扱い方と下準備
マムは傷みを防ぐため、花弁の広がりを抑えるネットがかぶせられていることがあります。
取り外すときは、ネットを大きく広げながら、花弁を傷つけないよう丁寧に外しましょう。

また、生ける前には、水に浸かる葉や傷んだ葉を取り除くのが基本です。
マムには節ごとに小さな葉が多くついているため、こうした葉もきちんと処理することで水が傷みにくくなり、花もちがぐっと良くなります。

■ 秋の色を添える《セロシア》
ケイトウの一種『セロシア』は、秋の気配をさりげなく取り入れるのにぴったりの花材。
ピンク〜オレンジなど多彩な色がありますが、今回は『シルキーガール』のやわらかなピンクに寄り添う、グラデーションの美しいものを選びました。

■ 紫のニュアンスと香りがふわりと漂う《アフリカンブルーバジル》
もう一種類の添え花材として使用したのが『アフリカンブルーバジル』。
香りのよいハーブとしても知られていますが、紫がかった茎や葉脈が美しい観賞用のバジルです。

バジルは水が下がりやすいため、不要な葉はあらかじめ取り除いてから使いましょう。
水が落ちてしまった場合は、茎を切り戻し、新聞紙などに包んで1時間ほど水揚げすると、いきいきとした姿が戻ります。

■ 花器について
今回は、ガラス製で形の異なる花器を3つ使用しました。
縦横10cm前後のサイズは日常にも取り入れやすく、花材とのバランスも取りやすくなります。
素材感を揃えつつ、形の違う器を合わせて使うことで、自然な統一感と遊び心が生まれます。

小さく生けて、余白を楽しむ

気温が高い時期は、なるべく毎日水を替え、茎を少しずつ切り戻すことで花が長持ちします。
お手入れの過程で自然と短くなった花を活かし、まったく違うスタイルで生け直すのもおすすめです。

ここでは、直径約10cm・高さ8cmほどのガラス花器を使用しました。
お手持ちの小鉢やグラスなどでも代用しやすいサイズです。

口が広めの器なので、マムをぐらつかない長さにカットしてから生け、マムの隙間からバジルが光に向かって伸びるよう差し込めば完成です。
マムの大きな花が自然な花留めとなり、細い草花もしっかり固定できます。

お手入れと長持ちのコツ

マムのように水をよく吸う花を長持ちさせるには、日々のお手入れが欠かせません。

まず、水はできれば毎日替えるのがおすすめです。
水が濁りやすい時季には、ぬめりやにおいが出る前に清潔な状態を保つのがポイント。
その際、茎の先を少しだけ切り戻すことで、水の吸い上げがよくなり、花もちがぐっと良くなります。

日常のお手入れには、ワイヤーも切れる園芸用のハサミがひとつあると安心です。
スパッと切れる道具を使うことで、茎の断面がきれいに保たれ、植物への負担も軽減されます。
また、延命剤をお持ちであれば、最初に使うとより効果的です。
水が傷みにくくなることで、茎の詰まりやぬめりを防ぎ、清潔な水環境を保ちやすくなります。

こうしたちいさな手間を重ねながら、少しずつ変化していく花の表情を見守る時間も、暮らしの中のささやかな楽しみになるかもしれません。