二十四節気の花絵

イラストレーターの水上多摩江さんが描いた季節の花に合わせた、
二十四節気のお話と花毎だけの花言葉。

第百十三話 立春の花絵「沈丁花」

2024.02.04

life


2024年2月4日から二十四節気は「立春」に

一年を24等分した節気のはじまりであり、新年ともいえるのが立春です。
二十四節気には春夏秋冬に「立」という字が付く節気があり、そのどれもが季節のはじまりを表します。立春のころになると実際の季節感とのずれから「暦の上では春」という枕詞がよく使われますので、節気は文学的なものとして捉えられがちです。しかし、太陽の動きを基に作られた二十四節気は日の長さや角度で季節が区切られていますので、実は科学的で天体の動きに即した暦といえます。


立春の行事

節分
「福は内、鬼は外」でおなじみの節分は立春の前日にあたります。もともと節分とは季節を分ける日を表していますので、本来は立春の前日だけではなく、立夏、立秋、立冬の前日すべてが節分となりますが、江戸時代以降、旧暦の大晦日にあたる立春前日の節分が重要視されるようになりました。現在も受け継がれている、邪気を祓う節分行事の歴史は古く、飛鳥時代ごろから行われていたようです。

立春大吉
立春には「立春大吉」と書かれた札を玄関に貼る風習があります。古くから左右対称の文字は邪気を祓うとされていて、災いが起きがちな季節の変り目にこの札を貼って、邪気=鬼を祓う風習が生まれました。これは鬼が家に入ってきて振返ったときに、裏からみても同じに見えるため、家の中に入っていないと勘違いして出ていくから、という言い伝えがもとになっているようです。また、立春大吉の札とともに「鎮防火燭(ちんぼうかしょく)」という、火災を鎮め防ぐという意味の護符を貼ることもあるようです。

立春のたべもの
新たな一年のはじまりである立春の朝に作った生菓子や清酒を、その日のうちに縁起物としていただく風習も行われています。生菓子は桜餅や鶯餅など春を感じるものや、大きな福という縁起のよい名前から大福など。清酒は日本各地の限られた蔵元が節分の深夜から作業を行い、立春当日の早朝に絞ったお酒をその日のうちに販売するというもの。どちらも一年の邪気を祓うことを願った、最近の風習です。


「沈丁花」

□開花時期: 2月下旬~4月中旬
□香り:あり
□学名:Daphne odora
□分類:ジンチョウゲ科ジンチョウゲ属
□別名:瑞香(ずいこう)、輪丁花(りんちょうげ)、七里香(しちりこう)
□英名:Winter daphne
□原産地:中国(推定)

沈丁花の歴史
原産地は中国と考えられていますが、原種が見つかっていないなど所説あり、真相は不明です。日本への渡来の時期は室町時代と考えれていて、当初は薬用として栽培されていたようです。江戸時代中期ごろから当時の園芸書などに沈丁花が記載されるようになり、儒学者の貝原益軒は自著の大和本草(1709年)で「香遠し故に七里香とも云」と、沈丁花の香り高さについて記しています。

七里香と九里香
沈丁花は香りのよさから金木犀、くちなし、とともに三大芳香木のひとつに選ばれています。沈丁花の別名である七里香(しちりこう)は、その香りが七里(約27km)先まで香りが届くという意味でこの名が付けられたとされています。ちなみに九里香(きゅうりこう)とは金木犀の別名で、九里をキロメートルで換算すると約35kmにもなります。
なお、環境省による「かおりの樹木」では沈丁花、くちなし(オオヤエクチナシ)、金木犀が香り強弱のランクで特強となっていて、5m以上離れて香る樹木として選定されています。

沈丁花の名前の由来
主にお香やお線香の香りに使われる、深みのある甘い香りの沈香(じんこう)と、香辛料や生薬として使われる、スパイシーで甘い香りの丁子を合わせたような香りがすることから沈丁花の名がつきました。
また、学名のDaphne odoraは香りのよいダフネという意味。ダフネとはギリシア神話でアポロンに追いかけられて月桂樹に変身した精霊・ダフネに由来するとされています。


花毎の花言葉・沈丁花「幸福の香り」

一般的な沈丁花の花言葉は「栄光」や「不死」などです。栄光は学名のダフネに由来する月桂樹の花言葉から、不死は常緑樹であることに由来していると考えられますが、なぜか香りとは関りがない花言葉です。
しかし、三大芳香木のひとつに選ばれている通り、沈丁花の最大の魅力は身近な場所でそっと春の訪れを伝えてくれる甘い香りではないでしょうか。
古来、立春に招運来福を願ったように、新しい春のはじまりを香りで告げる沈丁花に「幸福の香り」という、よき春を願う花言葉を贈ります。


文・第一園芸 花毎 クリエイティブディレクター 石川恵子

水上多摩江

イラストレーター。
東京イラストレーターズソサエティ会員。書籍や雑誌の装画を多数手掛ける。主な装画作品:江國香織著「薔薇の木 枇杷の木 檸檬の木」集英社、角田光代著「八日目の蝉」中央公論新社、群ようこ「猫と昼寝」角川春樹事務所、東野圭吾「ナミヤ雑貨店の奇跡」角川書店など