二十四節気の花絵

イラストレーターの
水上多摩江さんが花毎のために描いた、
二十四節気の花々です。

第七十四話 雨水の花絵「アネモネ」

2021.02.18

life


2021年2月18日から二十四節気は「雨水(うすい)」に

雪が雨に変わり、氷が解けはじめる時季を表したのが雨水という節気です。
ただ、今年の気象状況は各地で天候差が激しく、北海道は猛吹雪、東京は4月上旬の気温といったようなことも。

現代の気候では、雨水は冬とも春ともつかない節気ですが、それでも、季節はしたたかに歩みを進め、この節気の終わり近くにある「桃の節句」のころには、天候も気持ちもはっきりと春へと動きだすことでしょう。


「アネモネ」

□切り花出回り時期:11月~4月
□香り:無し
□学名:Anemone coronaria
□分類:キンポウゲ科イチリンソウ属
□和名:ボタンイチゲ(牡丹一華)、ハナイチゲ(花一華)、ベニバナオキナグサ(紅花翁草)
□英名:Anemone
□原産地:ヨーロッパ南部~地中海東部沿岸地域

風の花
アネモネの語源はギリシャ語のアネモス(風)で、anemoneは「風の娘」という意味。
これは、この花が早春の風が吹き始めないと咲かないことや、風がよく吹く場所を好むことに由来するそうです。そのようなことからか、英語圏ではアネモネより”windflower”という名前の方が一般的だとか。

ギリシャ神話とアネモネ
アネモネはギリシャ神話にたびたび登場ほど長い歴史のある花で、東西南北それぞれの風の神の総称をアネモイといい、中でもアネモネと関わりが深いのが、春と初夏の風を運んで来るのがボッティチェリの『プリマヴェーラ』にも唯一青白い姿で描かれている西風の神ゼピュロスです。
神話ではゼピュロスが妻である花の女神フローラの侍女のアネモネを愛してしまい、怒ったフローラがアネモネを追放し、結局ゼピュロスが花に変えてしまったというのがギリシャ神話におけるアネモネの由来です。
そして、ボッティチェリはこの『プリマヴェーラ』の中でアネモネを含めて190種類ともいわれる花を描きましたが、さまざまな比喩が込められているといわれているこの絵にはアネモネの神話がさりげなく織り込まれているのかもしれません。

芸術の中のアネモネ
16世紀から17世紀に掛けてフランドル派の画家たちが細密な花の絵を描くようになります。中でもヤン・ブリューゲル (父)は「花のブリューゲル」と呼ばれ、花の作品にはアネモネの花がよく描かれています。彼はさまざまな花が生けられた姿をとても華やかな作品を多く描きましたが、この時代は冬になると花が手に入らなかったため、生花の代わりになるような花の絵が好まれたからといわれています。
その後1880年代から始まった芸術のムーブメントである、アーツアンドクラフツやアール・ヌーヴォーの時代にもウィリアム・モリスやエミール・ガレがアネモネをモチーフにした作品を残しています。


花毎の花言葉・アネモネ〈見つめていたい〉

アネモネ全体の花言葉はあまり良いものがなく「はかない恋」「恋の苦しみ」「見捨てられた」といった、ギリシャ神話に由来する言葉が付けられています。

ギリシャ神話は現代に生きる私たちからすると滑稽ともいえる奇想天外な話ですが、そこから名付けられた花や、花言葉が多くあり、その花のイメージとは大きくかけ離れたものになっていることも……
今回のアネモネも然り。

花屋に出回るアネモネは美しいガクが(花びらに見える部分は実はガク)まるで黒目のような花芯を取り囲む姿とうねりのある茎がなんとも魅力的で、既存の花言葉が似つかわしくない、生命力を感じる春の花です。

そして前出の芸術家たちが描いたアネモネはもっと原種に近い花であったと思いますが、春のエネルギーを感じるこの花は、どの時代においてもクリエイティビティを刺激する力を感じます。

花毎の花言葉〈見つめていたい〉は、想像は観察からはじまる、そんなことに気付かせてくれるアネモネに贈る新しい言葉です。

文・花毎 クリエイティブディレクター 石川恵子

水上多摩江

イラストレーター。
東京イラストレーターズソサエティ会員。書籍や雑誌の装画を多数手掛ける。主な装画作品:江國香織著「薔薇の木 琵琶湖の木 檸檬の木」集英社、角田光代著「八日目の蝉」中央公論新社、群ようこ「猫と昼寝」角川春樹事務所、東野圭吾「ナミヤ雑貨店の奇跡」角川書店など