第三十三話 雨水の花あしらい「ストック」
2024.02.19
暮life
日本では季節の変化を敏感に感じ取り、年中行事や習わしに添った植物を暮らしに取り入れてきました。
「二十四節気の花あしらい」では難しいルールにとらわれず、気軽に季節を感じられる花を楽しむテクニックを第一園芸で花に携わってきた谷中直子がご紹介いたします。
毎月、旬の雰囲気を楽しめる花をピックアップして最後の一輪まで楽しみつくす、そんな花のあしらいのお話です。
2024年2月19日から二十四節気は雨水に
雨水(うすい)とは、雪が雨に変わる頃。
雪が解け始まり、雪解け水が田畑をゆっくりと潤します。
厳しい寒さは和らいで、いよいよ春が動きだす、そんな季節に選んだ花は「ストック」です。
小さな頃、早春の南房総でお花摘みをした思い出の花です。
畑一面に咲くカラフルなストックに感動して、お気に入りを摘み取り、お花屋さんごっこをした楽しい思い出とともに、ストックのスパイシーな香りに驚いて、少しだけ香りを苦手に感じたことを覚えています。
この刺激的な経験から「お花の香りって色々あるんだな…」と子供ながらに不思議に感じて、さまざまな花を見つけては香りを嗅ぐ、という行動のきかっけになった花でもあります(笑)
すっかりと大人になった今では、ストックのスパイシーで甘い香りが大好きになりました。
大人には分かる春の花、ストックをお部屋にいけて、その香りとともにフレッシュな姿を楽しみましょう。
ボリュームのある姿を楽しむ
ストックには大きく2つのタイプがあります。枝分かれせず棒状に花を咲かせるスタンダードタイプと、今回使った枝分かれして花を咲かせるスプレータイプです。
今回は純白のスプレー咲き品種「パールフェアリー」を選びました。
スプレータイプは1本でも枝分かれしてブーケのようにたくさんの花を付けますので、3本でこのくらいのボリュームになります。
葉がたくさんついている場合は少し間引いて風通しを良くすると、見た目もすっきりしてスタイリッシュになりますし、蒸れを抑えて日持ちもより良くなります。
いけるときのポイントは、花をくるくるとまわしてきれいに見える場所を見つけること。その場所が見えるように花瓶にいけていきましょう。
ただ全体にまんべんなく花がついているストックは、ざっくりいけるだけでも素敵に見えますので、あまり難しく考えず、気軽にいけてみてくださいね。
器を変えて、変わる表情を楽しむ
ストックはとても長持ちするので、水替えの際に器も変えて雰囲気の変化を楽しみましょう。
まずはオブジェのようなマーブル模様のガラスの花器にいけて、高級感のある花あしらいにしてみました。
お客様を迎える時の玄関やリビングなど、きちんと見せたいシーンにおすすめです。
次はカジュアルなピッチャーにざっくりと。
飾らないナチュラルな姿はキッチンやリビングなどくつろぎのシーンにぴったりです。
器によってこんなにも表情を変えるストック。いかがですか?
物価高の時代に、他の花と比べるとややリーズナブルで手に入るうえに長持ちもする、家計にやさしいストックをぜひ楽しんでみてくださいね。
枕草子の世界を想像してみる
春というと浮かんでくるこのフレーズからインスピレーションを受けていけてみました。
『春はあけぼの。やうやう白くなりゆく山ぎは、すこしあかりて、紫だちたる雲のほそくたなびきたる』
清少納言の随筆・枕草子の冒頭の一節です。
だんだんと白くなっていく山際の空が少し明るくなって、紫がかった雲が細くたなびいている。
そんなシーンを想像して、白いストックを山際に、「ハイブリットスターチス サフォラライラック」を紫がかった雲に見立ててみました。
平安時代の日本には存在しなかったストックとスターチスで古典を表現しています。
日本人が昔から遊び心で楽しんできた「見立て」の世界。
ぜひ、想像して楽しんでみてくださいね。
ふんわり霞がかった春の風景を表現
春は空気中に水蒸気を多く含むため、遠くの景色がかすんで見える「霞」と呼ばれる現象が起きることがあります。
平安の昔から「春霞(はるがすみ)」「秋霧(あきぎり)」というように、同じような現象を季節で表現を使い分けていた感性に感動します。
そんな春の風物詩である霞を表現してみたくて、霞のようにふわふわとした花を集めてストックと合わせてみました。
ストックをいけたら、ハイブリットスターチスとその名の通りの「カスミソウ」でふんわりとさせます。
青に染めた「アスチルベ」を加えて、色が足りないところに水色の「ニゲラ」と淡い紫の「ブルーレースフラワー」をいけて全体のバランスを整えましょう。
少し離れた場所から眺めて、全体に花が入っているか、ふんわりしているか確認しましょう。今回は春の霞がかった風景を表現するため、同じ種類の花を固めていけずに、まんべんなく配置して、ふんわりとした空気感を出しています。
器も丸いものからゴブレット型のよりフォーマルなものに変えて印象を変えてみました。器を変えてさまざまな姿を楽しみましょう。
小分けにしてカジュアルに楽しむ
ストックは下から先端へ向かって順に咲き進んでいきますので、萎れてしまった花は取り除きましょう。
お手入れを続けて花が少なくなってきたら、枝分かれした部分からカットして小分けにしてみましょう。
短くすることでより気軽に楽しむことができると思います。
ガラスの花器でカジュアルに。花はぎゅっとまとめて少しだけ傾けていけて、スタイリッシュな印象にしています。
一輪挿しをステージに集めてドレスアップ
ケーキスタンドを使って一輪挿しをドレスアップしてみませんか?
花をいける器はあえて形を揃えないでカジュアルダウンすると、バランスが取れて今っぽい仕上がりになると思います。
せっかくのケーキスタンド、お持ちの方はぜひ花を飾るステージとして活躍させてみてくださいね。
カップに入れてカジュアルに楽しむ
カップアンドソーサーは短くなったストックにぴったり。
白くふわふわした花は、まるでミルクの泡のようで、眺めているとほっこりした気持ちになります。
ストックの花は折れやすいので、お手入れの際などに折ってしまった場合にもおすすめです。
小さな一輪を並べて愛でる
お手入れを続けて花が少なくなってきたら、花を茎から切り離して小さな器にいけましょう。
小さなジャムの空き瓶や調味料入れなど、探してみると小さな花にあう器は意外に見つかりますよ。
一輪にすると花の形をより楽しむことができます。
肉厚でマットな質感のストックの花を、最後まで楽しんでみてくださいね。
遊び心で最後まで楽しみつくす
長い間楽しんだストック。
最後の一輪はオブジェに添えて飾って楽しみました。
半日程であれば水につけなくてもこのような姿をとどめることができます。
ストックの香りは集中力を高める効果もあるとか。
近くに置いて、かわいらしい姿とともに、香りも楽しんでくださいね。
「ストック」の基本情報
「ストック」の基本情報
□出回り時期:10月~5月
□香り:あり
□学名:Matthiola incana
□分類:アブラナ科アラセイトウ属
□和名:紫羅欄花(あらせいとう)
□英名:Stock
□原産地:南ヨーロッパ
□花言葉:「永遠の美」「愛情の絆」「求愛」など
花毎でご紹介しているストックのお話
ストックにまつわるお話とさまざまな品種
旬花百科 第十話 「ストック」
谷中直子
第一園芸入社前から学生バイトで働く生粋の第一園芸人。百貨店系ショップでいわゆる花屋さんを数年経験後、ホテル店に移動しブライダル関係を十数年経験。店長職を経て本社勤務に。現在は広報としてリリースなどの社外発信を担当。
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