夢の花屋

週末、自分のために花を飾りましょう。
花を手軽に楽しむコツを第一園芸のフローリストがご紹介します。

第五十三話《オートクチュールドレス》に見立てる

2026.11.01

贈gift

この世にある美しいものを花に見立てたら──
こんな難問に応えるのは、百戦錬磨のトップデザイナー。
そのままでも美しいものを掛け合わせて魅せるのが《夢の花屋》です。

第五十三話は、世界最高峰の仕立て服として知られる「オートクチュールドレス」に着想を得たブーケ。
手掛けるのは第一園芸を代表するデザイナーのひとり、《志村紀子》。
花々をレースや刺繍に見立てながら、一輪一輪を丁寧に重ね、優雅な一着を描き出しました。
ここからは、アトリエで特別なドレスが生まれていく過程をたどるような気持ちで、お楽しみください。

オートクチュールとは

オートクチュール(Haute Couture)とは、フランス語で「高級仕立て服」を意味します。一人ひとりの顧客のために採寸から行い、デザイナーと職人たちの手によって仕立てられる一点物の衣服のことです。

その歴史は19世紀半ば、パリで活躍したデザイナー、シャルル・フレデリック・ウォルトに始まるとされています。顧客の要望に応じて服を仕立てるのが一般的だった時代に、自らデザインを提案し、それをモデルに着用させて披露する手法を確立。現在のファッションショーへとつながる新しい仕組みを築きました。

オートクチュールは、単に高価な服を意味する言葉ではありません。フランスで法的に保護された名称であり、その名を掲げるには厳しい条件を満たす必要があります。パリにアトリエを構え、顧客ごとの注文制作を行うこと。専属の職人を擁すること。さらに年2回のコレクションで一定数以上の新作を発表すること。そうした条件をクリアした限られたメゾンだけが、「オートクチュール」を名乗ることを許されています。

ファッション業界のなかでも、オートクチュールは特別な存在とされています。販売数や流行だけでは測れない、創造性や職人の技術、そしてブランドが追求する美意識の結晶であり、ファッション文化の最高峰とも称される世界です。

また、華やかなランウェイで視線を集めるドレスの背景には、多くの職人たちの手仕事があります。生地を縫い上げるお針子をはじめ、繊細な刺繍を施す職人やビーズ、レースを扱う専門職人たち。その卓越した技術と膨大な時間が幾重にも積み重なることで、一着のドレスは単なる衣服を超えた作品へと昇華されていきます。

今回の「夢の花屋」では、そんなオートクチュールの世界を花で表現しました。一輪一輪をレースや刺繍、装飾の素材に見立てながら重ね、仕立てるように紡いだ作品です。


見立ての舞台裏

オートクチュールドレスの世界観を表現するために、志村が選び抜いた花々です。
さまざまなバラを中心に、カラーや珍しい蘭など、特にエレガントな品種が用意されました。

今回はブーケとして表現。ひとつひとつが個性的な花を束ねていきます。
フューシャピンクのバラは、香り高いバラのひとつ『イブピアッチェ』。パウダリーな淡いピンクの『エスカラス』は、志村が今回の見立てのモチーフになったドレスの色に近しいことから選ばれたバラ。

花は品種ごとに束ね、それぞれのまとまりを生かしながら、一着のドレスを作るようなイメージで組み上げていきます。


志村紀子が花で見立てた《オートクチュールドレス》

完成したブーケについて、志村に話を聞きました。

「今回はオートクチュールのドレスに見立てましたが、具体的には、写真で見た1960年代のバレンシアガのドレスから着想を得ました。
それは、繊細なレースのロングドレスの上に、後ろ身頃だけが長いつややかでシンプルなトップスを重ねた一着でした。1960年代ならではの近未来的な雰囲気があり、不思議な魅力を感じさせるデザインです」

「今回、主役の花として使用したのは、かつて茶系のバラとして一世を風靡した『ブラックティー』です。一本ごとに微妙に色合いが異なり、同じ品種とは思えないほど奥行きのある表情が魅力です」

「インスピレーションを受けたドレスのシルエットに近しいイメージがあるのが、つややかでシンプルなシルエットの『カラー』です。
ここでは、黒い『カントール』、赤い『トーキョー』、白い『ホワイトマンボ』の3色を使用しています。花の個性を際立たせたかったので、ひとかたまりの束にして加えました」

「ブーケの下部に添えた、細かな花弁が連なる白い『ハイドランジア』とスプレーバラの『オールドファンタジー』は、手仕事で作られたレースのような美しさをイメージしています」

「束ねた花々がそのまま花器になったようなイメージの、ユニークな花器にブーケを生けました。
陶花で覆われたこの花器も、細やかな手作業によって生み出されたものです。オートクチュールの世界にも通じるものがあり、今回の作品イメージを支える大切な要素となっています」

「ブーケ全体をつなぐ、アクセントになっているのが、珍しいピンクのオンシジウム『ヴォランドピンク』です。
腰から足元に広がる、美しいレースをイメージして、たっぷり加えました」

今回の花材:バラ(イブピアッチェ、エスカラス、ブラックティー)、スプレーバラ(オールドファンタジー)、カラー(トーキョー、カントール、ホワイトマンボ)、オンシジウム(ヴォランドピンク)、チュベローズ

オートクチュールと花は、一見すると異なる世界のもののようでいて、実は深い関わりを持っています。ファッションデザイナーたちは古くから花に着想を得てきましたし、生花そのものを取り入れたドレスも数多く生み出されてきました。今回の作品もまた、ある一着のドレスから発想を広げながら制作されたものです。

花は、ときに風景になり、ときに名画になり、そして今回はドレスになりました。もちろん本物の布やレースではありません。それでも完成した作品からは、ドレープの揺らぎや刺繍の繊細さ、仕立て服ならではの気品が感じられます。
特定のドレスに着想を得ながらも、その姿は花だからこそ生まれたもの。どんなドレスがそこに浮かび上がるか。その答えは、見る人それぞれの想像の中にあるのかもしれません。


《夢の花屋》でご紹介している志村紀子の作品
第五十一話《香水》に見立てる
第四十九話《夏霧》に見立てる
第四十七話《パラオのジェリーフィッシュレイク》に見立てる

夢の花屋から商品が誕生!
【夢の花屋】「トルコの色彩」ブーケ
【夢の花屋】「トルコの色彩」アレンジメント


「夢の花屋」ではトップデザイナーならではの、鋭い観察眼や丁寧な仕事が形になる様子まで含めて、お伝えしていきたいと思っております。
こんな見立てが見てみたい……というご希望がございましたら、ぜひメッセージフォームからお便りをお寄せください。

第五十四話予告
次回は新井光史が登場。12月1日(火)午前7時に開店予定です!

志村紀子 Noriko Shimura

東京生まれ。国内を代表するホテル、外資系大手ラグジュアリーホテルのウェディングやパーティー装花に携わり、帝国ホテルプラザ店で活躍。現在は第一園芸を代表するデザイナーとして、Noriko Shimuraブランドを展開。他にも社内スタッフ教育部門の講師、対外的なワークショップ講師、各種商品提案、空間装飾のデザインなどを担当している。

第一園芸オンラインショップ「Noriko Shimura」

Text・Photo 第一園芸 花毎 クリエイティブディレクター 石川恵子