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〈北海道ガーデン街道 vol.1〉第五話 1000年先の未来へつなぐ庭 「十勝千年の森」【前編】

2018.08.18

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*写真提供:十勝千年の森

第四話で真鍋庭園を訪れた後、帯広市内で1泊した私たちは、翌朝「十勝千年の森」へ。
帯広市街から30km。日高山脈の麓に位置する、400ヘクタール(東京ドーム約85個分!)の壮大なガーデンです。

コンセプトは『未来へ遺す、未来に引き継ぐ』。

1990年代、十勝毎日新聞社が新聞紙として紙を使うことから、森林資源を還元するためカーボンオフセット(炭素の相殺)を起源に育林業からこの森づくりがスタート。やがて自然豊かな十勝の地を活かして、たくさんの人が集えるような場所にしたいという、十勝毎日新聞社会長の林光繁氏の思いから「十勝千年の森」の構想が生まれました。
林氏と十勝毎日新聞社が、ランドスケープアーキテクトの高野文彰氏と同氏が交流のあったイギリスのガーデンデザイナー、ダン・ピアソン氏にマスタープランの設計を依頼し、2008年に十勝千年の森はグランドオープンしました。

「十勝千年の森」のヘッドガーデナーである、新谷みどりさんにガーデン内を案内していただきながらお話を伺いました。 写真は〈ナチュラリスティック プランティング〉の植栽図を説明する新谷さん。

花毎スタッフI:

この場所の成り立ちについて教えていただけますか。

新谷さん:

十勝千年の森は、日高山脈と十勝平野の接点に位置していて、北海道開拓の時代に入植者によって拓かれ、酪農が営まれていた場所です。山の麓にあるため、冬には最低気温が-25度にまで下がり、「日高おろし」と呼ぶ吹雪が抜ける厳しい自然環境です。
元々は3軒の農家がこの土地で暮らしていましたが、その後離農して後継者がおらず、20年近く放置された森でした。昔は雪の少ない地域でしたが、最近は温暖化の影響でたくさん降るようになりました。

体感する庭

アースガーデン/大地の庭 日高山脈と芝の丘が一体となり、人も自然の一部になる風景としてデザインされた庭。

花毎スタッフI:

壮大なこの庭はどのように作られたのでしょうか。

新谷さん:

ここは、かつて牧場として使用されていたまっ平らな土地でした。
ダン・ピアソンが初めてここを訪れた時に、元々ある日高山脈と「千年の丘」の稜線に連なるような地形の庭をつくることを発案して、基本デザインを描きました。
高野ランドスケーププランニングと共に実施設計を行い、ひとつひとつの丘の高さや配置の細部にこだわって最終的なデザインが完成しました。客土と盛土の工法を取り入れて作っています。

十勝千年の森がとても大切にしていることは、「庭は向こう側にある自然と人をつなげる場である」ということです。
まっ平らで広大な土地を目の前にすると、人はどこに向かって歩けばいいのかわからず戸惑う。
来園者は入り口から森を抜けると、目の前に広がるアースガーデンのダイナミックに起伏する大地と一体となって、いっきに解放されます。緩やかに連なる丘に誘われるように歩きはじめると、いつのまにか山々の自然と自分の心の距離が近づいてくる……庭は人もまた自然の一部なのだということを知る場、というメッセージがアースガーデンにはこめられています。

タイミングが合わず、ガーデン内をセグウェイに乗って巡るツアーには参加できませんでしたが、体験試乗にチャレンジしました。自転車より簡単。運動神経に関係なくすぐに乗って動ける、楽しい乗り物です。

花毎スタッフI:

芝生がたいへんに美しいのですが、こちらはどのように考えられたのでしょうか。

新谷さん:

アースガーデンの芝の栽培管理には、当初から専門家に入っていただいています。ダンのデザインに合わせて、淡い黄緑色がきれいに出るように、ケンタッキーブルーグラスとペレニアルライグラスの配合を9種類ほど試験栽培した中から最終的な配合が選ばれています。
刈り高も27mmと決めていて、それは芝の生育に理想的で、なおかつ裸足で歩くと気持ち良い長さだと考えています。
夏の間は多い時では週に3日かけて芝刈りをしています。法面(のりめん)* にはオーチャードやティモシーといった牧草をわざと長く伸ばして育て、風が吹くとざあっとなびくようにしています。
急こう配に切られた法面は、西日が差すと芝をキャンバスに陰影がはっきりと出ます。アースガーデンでは、光や風の移ろいを繊細に植物が捉える庭作りを大切にしています。


花毎スタッフI:

体感するお庭なんですね。

新谷さん:

そうですね、来園者のみなさんがここに来て、実際に空間を体験して、自分の場所だと感じられるものを見つけていただきたいなと思っています。

* 法面(のりめん)
切土や盛土により作られる人工的な斜面のこと

メドウガーデン/野の花の庭  大自然をお手本に作った庭。自生種と園芸種の草花が調和し、季節ごとに表情を変える。

花毎スタッフI:

十勝の気候と植物の見ごろを教えてください。

新谷さん:

ここ数年で例年の夏の気候が変化しつづけていることを感じますが、6月下旬から7月にかけて気温が高くなり、8月のお盆を過ぎると一旦初秋のような気候になり、さらに8月下旬に再び暑さが戻ってくることが多いです。メドウガーデンでは、7月から8月にかけて最も多くの植物の開花時期が重なります。


花毎スタッフI:

7月中旬がピークシーズンですか?

新谷さん:

ここは、十勝の中でも植物の生長期が始まるのが遅い方だと思います。植物の開花という意味では、これからようやく本番ですね。一週間置きに庭の表情が変わっていきます。夏の植物が開花を終えて結実する9月上旬から中旬にかけての庭は、秋らしい風景がいいですね。
メドウガーデンについて私はいつも、秋にむかってこの庭を作っているという気持ちを持っています。実りの季節を迎えつつ、秋の花々が咲き、グラス類が穂を上げると、庭の雰囲気が徐々に変わっていきます。

花毎スタッフI:

「十勝千年の森」で使われている植物について教えてください。

新谷さん:

メドウガーデンでは、十勝の自生種や日本の植物とそのルーツを汲む園芸種、そして似た気候の北米の植物を選んで組み合わせて庭を作っています。
ダンの植物選びは、花や葉、茎の意外な色合わせや形や質感の大胆な組み合わせがあって面白いですね。
現場からも、例えば「この時期にこういった雰囲気を生む植物があると良い」などの提案を積極的にして、毎年5、6種の新しい植物を増やしてきました。ダン自身もガーデナーであり、ガーデンデザイナーであるので、現場をとても重視する人です。
2008年にメドウガーデンを作った時に80種、35,000株の宿根草を植えました。庭の広さに対して意外と種類が少ないのですが、基本的に1種類の植物をたくさん植えています。現在では140種ぐらいまで増えています。

花毎スタッフI:

スタッフの方々が苗から育てられるのでしょうか。

新谷さん:

キッチンガーデンで育てる1年草や野菜やハーブなどの作物の多くは自分たちで苗を作っています。メドウガーデンの宿根草は、大森ガーデンさんやイコロファーム、イコロの森などのナーサリーと、自分たちで作った苗を組み合わせて育てています。




花毎スタッフI:

植物のレイアウトに法則などはあるのですか。

新谷さん:

メドウガーデンはダンによって〈ナチュラリスティック・プランティングスタイル〉という植栽手法でデザインされました。ナチュラリスティック・プランティングは、さまざまな植物が棲み分けを図りながら混然一体となって育つ自然植生に着想を得たものです。
植物がまるで自然に現れたかのように植栽するために、ダンはひとつひとつの植物に記号を与え、基本的な組み合わせ方を定めた後、それらをコンピューターで乱数表のソフトを活用して、植物がランダムに配置されるように図面を描きました。
このメドウガーデンの画期的な植栽デザイン手法は、ダイナミックな風景を作るアースガーデンと共に、新しい庭づくりだと評価され、受賞* に至りました。

* イギリス・ガーデンデザイナーズ協会The Society of Garden Designers主催SGD AWRDS 2012でGrand Award(大賞)とInternational Award(国際賞)を受賞。


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十勝千年の森

北海道清水町羽帯南10線
http://www.tmf.jp
冬季休業期間があります。営業時間、入館料などの詳細につきましては十勝千年の森のWEBサイトをご覧ください。