花月暦

日本の文化・歳時記研究家の
広田千悦子さんが伝える、
季節の行事と植物の楽しみかたの
エッセイ

第三十八話 「一月 小寒 大寒」

2020.01.07

life

雪の花

ゆっくりとお正月も明けて、小寒へ。
学校や仕事がはじまり、世の中も再び静から動へと大きく変わります。
冷たい寒空の中、花色を探したくなるかもしれません。
はっとするような明るさであたりを照らしていた銀杏の葉も何処へ。
樹々は皆、静かに眠りについているように見えますが、脈打つように張る根はしっかりと大地をつかみ、目にみえないところでいのちを深めています。

一月から二月にかけて、海に雪が降り注ぐ日があります。
白い雪を眺めていると「六花」、「雪華」など、花の名で呼ばれていたことを思い出します。
なかなか関東では雪の結晶を見ることが叶いませんが、凍えるような寒い日には、肩の上に降りた、その花を見ることができます。
たくさんの花が空から舞い降りてくるこの世の不思議。
くりかえしくりかえし、エンドレスに空からやってくる雪の花が降りてくる日が今年も楽しみです。

冬の笹

冬のクマザサには白く美しい縁取りが見られます。
まだ若い葉には縁取りのないものもありますが、これは、寒い冬を越すために縁への水分を断ち、生きるための工夫。
青一色の笹とは種類が違う、と長いこと勘違いをしていました。
紅葉のあと、樹々が葉を落とし眠りにつくのと同じようなものかもしれません。それが冬の笹葉の景色としてあらわれているのです。
クマザサの名も「熊笹」ではなく、縁が白く隈になる「隈笹」が由来だとか。
冬の隈笹は縁に水分が少ないおかげで、乾いてきてもピンとしていてさまざまな花との相性もよいのです。

氷の椿

早々と咲いた椿が、こおる水の中で輝いています。
氷は、ふだんの景色をガラリと変えてしまいます。
二十四節気が小寒、大寒と進むうちに、吐く息は白くなり、早朝の草木花には霜がついていたりします。

身が引き締まるような寒さの時期は、ぎゅっと身体もかたくなりがちで、内側へと気持は向かい気味だから、時折、椅子の上で手をぐんと伸ばしてストレッチをするのと同じように、目線を動かし、心も伸びをして解き放つのは大切なことです。
身近な場所の、いつもとは違う小さな発見が手助けになります。

旧正月の門松

二回目のお正月がやってきます。
長い年月に渡って日本人が使っていた旧暦のお正月です。
新暦の年の瀬や、年始にやり残してしまったなあ、という思いがある時はちょうどよい仕切り直しの機会です。

今年は、大晦日が1月24日、旧暦の元旦は1月25日と一月中にやってきます。
私は毎年、あらためてお飾りを掛けて新年を迎え直すような気持で過ごします。
今年は、子年を「根」の音にかけて、旧正月の根引きの松を束ねてみました。

行事や季節の楽しみごとは、自然のリズムを保ち、自分らしさを思い出すための助けになってくれますが、季節のズレがあるもの、ないものが入り交じっており、複雑に感じることもあるでしょう。
ただ、今はアプリなど便利なものが豊富にありますから、自分のライフスタイルや考え方に合わせて臨機応変にこよみを
使い分けるのも、そう難しいことではありません。

二回目のお正月、旧暦の正月の季節は、そろそろ節分が近づき、窓から差し込む光りも、いつのまにか白く眩しくなる頃。
旧暦のお正月を迎えてはじめて「迎春」や「新春」とお年賀に書く意味が、ようやく腑に落ちてきます。

山茶花

今年の冬は暖かい日が多いせいなのか、あの台風のせいなのでしょうか。
水仙の花もこれからが見頃と、とても遅い出だしです。
この時期、彩りを求めてさまよう気持を引き受けてくれる花の一つが、今年は山茶花ではないかと思います。

長い期間に渡り咲くこの花は、はじめは慎ましやかに、そしてだんだんと花を広げていきます。
一枚一枚落ちる花びらが道を彩るのも華やか。
凛と咲く花の時期はとうに過ぎましたが、大きく開いた山茶花の花もまた、ゆるやかで優しい趣きがあります。

どの花もそうですが、「旬」と呼ばれる時だけが花の時期ではありません。
ふわりと羽を広げるように咲く今の山茶花は、辺りの空気をふんわりと和らげ、あたりの空気をやわらかにする力を放っています。

「二月 立春 雨水」

季節はうってかわり、春の目覚め。
冬と春という異なる二つの季節が織りなす花と景に、心はふくらんでいきます。

広田千悦子

文筆家。日本の文化・歳時記研究家。日本家屋スタジオ「秋谷四季」(神奈川県)などで季節のしつらい教室を行う。ロングセラー『おうちで楽しむ にほんの行事』(技術評論社)、『鳩居堂の歳時記』(主婦の友社)ほか、著書は20冊を超える。

写真=広田行正