花月暦

日本の文化・歳時記研究家の
広田千悦子さんが伝える、
季節の行事と植物の楽しみかたの
エッセイ

第三十三話 「八月 立秋 処暑」

2019.08.13

life

長く続いた梅雨の後。
たっぷり蓄えられた潤いが、前触れなくやってきた灼熱の太陽に照らされて一気に噴き出しています。

耳を傾けると、蝉の音もまだ本調子ではない様子。
いつもなら蝉時雨のミンミンゼミもまばらで、朝夕のヒグラシの音がようやく揃ってきたところです。

人間だけでなく他のいきものたちも、突如としてはじまった灼熱のような日々に戸惑っているのでしょうか。

厳しい暑さをしのぎ、暮らすには、無理をせず、冷房や風でしのぎながら、身体が暑さに馴染むのを待ちます。

知らぬうちに溜め込んだ気持をゆっくりと、手放していくときのように、焦らず、少しずつ、あくまでも自分のペースで。
暑い中では生まれがちな荒々しい気持をそっとなだめてみます。

修行僧のようなこんな気持を支えてくれるのが、秋の雲と、夜空の星、そして草花です。

立秋、処暑と続けば、もう秋がはじまるのです。
季節が移り行くきざしが見えはじめた空を見上げながら、体内のリズムを整えていきます。

心が鎮まれば自然と、地上の花々や人の優しさに、目を留める余裕が生まれてきます。

初秋の行事はお盆です。

ご先祖さまだけでなく、様々な霊をお迎え、もてなし、お見送りします。
日本では見えないものの存在をお迎えするのは、お盆だけでなく、一年を通して折々に行われていました。その大きなものが、お正月とお盆です。

日本各地では、ほんとうに様々なかたちの、心くばりや祈りのかたちが生まれました。

おなじ「棚」ではあっても神棚と違い、お盆の時期だけ拵えるのが盆棚です。
笹や茅の縄をつかって、霊の宿る、あるいは目印にするよりしろのような意味を持つものを準備することもあります。

今年は、目に見えない大切な存在をお迎えするための目印に、山の笹を。
その笹にお迎えする精霊のための明かりとしてほおずきを本麻で結びました。

毎年、お迎えとお見送りのための舟を真菰(マコモ)でつくりますが、
今年は夏越の祓えに使う茅で精霊舟をつくりました。
旬のものや、ちなむお供え物をみつくろい、舟の上にのせて。
禊萩(ミソハギ)などの盆花をしつらいます。
青々とした草を使うと、瑞々しく、涼しげ。

海や川を渡る颯爽とした舟の趣きが出てきます。桃の節供、七福神、宝船、全国各地の祭り、そしてお盆の精霊舟、とあらゆる日本文化のシーンに登場するのが「舟」です。

*真菰(マコモ)とは:日本各地の水辺に群生する、イネ科マコモ属の多年草。別名ハナガツミ。

夏の花のシンボル、木槿(ムクゲ)が花盛りです。
すっと伸びた枝に、次々と花を咲かせます。

この花の魅力は、一日花だということ。
そして目に入るものの気持を和らげる、花びらの透かし。
花を終えると、すっと花びらを畳み、大地にたくさんの花を落とします。
大きな花びらをたたむのも力がいるはずです。
暑い最中にあっても、後の始末も見事。
真夏の道は、木槿に様々なことを教えてもらいながら歩きます。

九月

秋本番となり、月の美しい時がやってきます。
夕暮れ時の秋の虫の音に心を寄せていきたい季節です。
夜の訪れもだんだんと早くなっていきます。

広田千悦子

文筆家。日本の文化・歳時記研究家。日本家屋スタジオ「秋谷四季」(神奈川県)などで季節のしつらい教室を行う。ロングセラー『おうちで楽しむ にほんの行事』(技術評論社)、『鳩居堂の歳時記』(主婦の友社)ほか、著書は20冊を超える。

写真=広田行正