花月暦

日本の文化・歳時記研究家の
広田千悦子さんが伝える、
季節の行事と植物の楽しみかたの
エッセイ

第四十六話 「九月 白露 秋分」

2020.09.07

life

草露白(くさつゆしろし)

厳しい残暑が続きますが、いつの間にか、日暮れが早くなってまいりました。

日差しは部屋に斜めに入り込んでくるようになり、部屋は光りで満ちるようになります。
もうすぐ刈り上げる稲には、朝露が玉のように光っています。

気温が高くても、明らかに八月と違うのは、朝夕の風の心地よさだけではないでしょう。
しっとり、ひそやかに夜の存在感が増してくるからに違いありません。

二十二日の秋分が近づいてくればなお、お日様が顔をのぞかせる時間が少なくなってきて、
少々さみしくなってきます。

毎年不思議に思うのは、昼の時間が短くなり、夜の時間が長くなるにつれて、街の中の灯りが、だんだんと、和らかに優しげになること。

夕暮れの色と相まって、ノスタルジックな気分に浸りやすくなるのも、そんな時間です。

自分に働くのか、世界に働くのを眺めているのか、境い目は曖昧ですが、闇夜が多くなる中では、世界を穏やかに保とうとする力が、自然に働くのかもしれません。

これから続く、仲秋から晩秋へと向かう季節。
和らぐ灯りに包まれた夕暮れの街を眺めながら、ひと呼吸つく愉しみを、忘れずに過ごしていきたいと思います。

旧暦の盆

今年の旧暦のお盆は9月2日です。

現代に生きる私達には、新暦の盆、月遅れの盆、そして旧暦の盆と、三つのお盆の機会があることになります。

明治時代の急激な改暦のために生まれた混沌も、現代に生きる私達には遠い話になりつつあります。
そう遠くない時代に、お盆などの行事に、なぜ三つの時季があるのかも、記憶の彼方へ忘れ去られていく日がくるかもしれません。

多様な文化が交じり合い、いつかは、枠のない時代になりそうな気もしますが、元来、日本全国各地の習わしがとても多様であったことを思うと、変わっていくというよりは元の姿に戻っている道中、と考えてもよいのかもしれません。

今回は神奈川県などに残るお盆の道具で、ご先祖さまが往来するための旅支度、旅笠の習わしに、仙人草の花を添えました。
蔓をのばす花を、二つの笠にかけたのは、現世と別世をつなぐ橋にみたてます。

布袋葵

透き通るような、青い花を咲かせているのはホテイアオイです。
夏の花らしく、咲いているのを朝みかけて、喜んでいると、夕方にはしぼんでしまう一日花。

名前の由来は、浮き袋のようなふっくりとした葉柄を七福神の布袋様の豊かなお腹にみたてたもの。
縁起のよい名前がつけられています。

月見のしつらい

十五夜がやってまいります。

今年はいつもより少し、遅く10月1日。
ギラギラとしていた太陽も穏やかになり、空の主人公はお日様からお月様へとうつっていきます。

十五夜のしつらいも各地によってさまざまな考え方があります。
今回のしつらいは「箕(み)」を使いました。

暮らしの中の道具をお供えものに使うカタチの一つ。
呪術的な意味や儀礼に多く使われた箕に月見団子と、尾花、女郎花を添えました。

実りのお供え

お月見には、その土地土地の旬のものをお供えします。

名月を鑑賞するというよりは収穫祭の意味が強かったというところや説があります。

その時節に一番、美味しいものを、よい実りを得たものをお供え物にするのが基本ですから、
当然、その土地土地により、お供え物も、お供えする花も異なるのが一般的でした。

我家の今年のお供え物には三方の上に、里芋の葉を敷いて、旬の冬瓜と縁起を担いで瓢箪型の南瓜、よい香りを放つジンジャーリリーの花を添えました。


十月 寒露 霜降

晩秋も本番。
大気は澄み渡り、空気も美味しい季節です。
身体のめぐりをよくするために、安全なところで時折、深呼吸をして胸を満たします。

 

広田千悦子

文筆家。日本の文化・歳時記研究家。日本家屋スタジオ「秋谷四季」(神奈川県)などで季節のしつらい教室を行う。ロングセラー『おうちで楽しむ にほんの行事』(技術評論社)、『鳩居堂の歳時記』(主婦の友社)ほか、著書は20冊を超える。

広田千悦子チャンネル(Youtube)

写真=広田行正