第四十八話 「十一月 立冬 小雪」
2020.11.07
暮life
初冬の水辺
秋惜しむ。
穏やかな心地よい秋の空気感とも、少しずつお別れの時を迎えました。
立冬が訪れても、冬と呼ぶにはまだ早い、と思う人も多いでしょう。
どちらかというと、まだ呼びたくないという気持ちの方が強いかもしれません。
そんな思いを持ちながら、青々としていた草むらをあらためて見ると、草紅葉は深まり、思っていた以上に枯れ色が広がっていて草木のしんなりとしている姿に、不意を突かれます。
水辺にはいち早く季節が訪れるのか、すっかり冬の顔。
透明感のある景色は、冷たい空気を遠くまで広げていくような力があります。
それにしても、いつも同じ変わらない景色があるものと、思い込んでしまいがちなことを、不思議に思います。
現実は同じところにとどまることなく、すべては流れていることを、季節のうつろいが、繰り返し教えてくれています。
家の中の季節も大きく変わり、あれほど強かった西日はいつの間にかやさしい光になりました。
陽だまりは、心地よく部屋をあたためますが、日が沈んだとたんに、ひんやり。
この落差も11月らしいところです。
窓から忍び込むその冷気に触れる度に、忘れていた冬の記憶は、少しずつ呼び覚まされていきます。
こういう時には、首や足首、手首など、身体の境界線になるところを温めるなどして、いつもよりも身体や心を大事にするよう、心がけていると、新しい季節を楽しむ気持ちが、冬芽が育まれるように静かに芽生えてきます。
草木花と同じように、自然にうまれたものが、一番ゆるぎのない、確かなもの。
枯れゆく草木が重なって土に還り、大地の滋養となるのを眺めつつ、自分の中にも折々の力を重ねて、土台を養う季節にできればと思います。
初冬の庭
露地に咲いていた名残の杜鵑草、高くのびた狗尾草、背高泡立草、野路菊を合わせて。
冷たい空気が降りる初冬の野の趣をそのままに華立に入れて。
枯松葉と背高泡立草
枯れゆく草木を愛おしく眺めるうちにみつけた枯れ松葉を集めて精麻で結びます。
日本庭園では苔を寒さから守り、趣のある景色を描く大事な役割を果たします。
11月の行事、お火焚きを思わせるような形に拵え、火に見立てた背高泡立草の花を添えて。
稲穂花
一年を通して育て、収穫を迎えた稲穂を油でさっと揚げ、稲穂花に。
八寸に朱色の正絹を敷き、姫榊を添え、小さな収穫祭のお供物として。
揚げた稲穂は花開くもの、閉じたままのもの、様々だけれどそれがまた景色。
ぽろりと落ちる、稲穂花をいただけばその美味しさにまた驚くこと請け合い。
また来年、育てようという気持ちが生まれます。
月桃の朱い実
朱色の実が乾いて、縦皺がはっきりとしてくるとより存在感が増します。
月桃は、沖縄や小笠原などの南方の島に自生し、香りのよい花を咲かせます。
生の葉は包みに、茎は綱などをつくる生活の道具であると同時に、沖縄では十二月、月桃の葉で餅を包み、お供えにして厄祓いをする、
祈りのための植物です。
種子は煎じると赤茶色のお茶に。
咳止め、胃の調子がよくないときによいそうです。
朱色の実は貫禄があり、しつらうのも難しいのですが、骨董のような佇まいが目をひきます。