花月暦

日本の文化・歳時記研究家の広田千悦子さんが伝える、
季節の行事と植物の楽しみかたのエッセイ。

第四十九話 「十二月 大雪 冬至」

2020.12.07

life

冬木

冬の風が大木の葉を落としていくにつれて、向こう側の景色が開けていきます。
春から夏の間には見えず、知らなかった世界の幕開けです。

冬の嬉しいところは、様々な視界が広がり、見通しがよくなること。
今年は特に、呼吸を深くして、胸のうちを広げるような感覚を手にしていたいから、見晴らしのよくなる冬の景色に、時折手伝ってもらいます。

ちなみに木々が葉を散らせる日、というのは決まっているようで、ある日、いっせいに葉を落とす姿を目にします。

木々が示し合わせたようなその日、はらはらと葉が落ちる中に出くわすと、とにかく嬉しいものです。
また、歩いていると道に落ちた葉が雨に濡れ、だんだんとそのかたちを無くしていくのを眺めるひとときに、心解けることも。

大雨や強風など、自然の脅威から守られた暮らしも便利で大事なものですが、こうして時折ささやかにでも、自然のめぐりを眺め、触れ、感じるひとときは、緩やかな気分を思い出す力をつけてくれます。

夜の楽しみは、枯れ木星。
枝の隙間から見え隠れする星の光がちらちらと輝きます。
枯れ木月、という言葉は見当たらないけれど、葉を散らした枝の合間から見える月のかたちは、なおいっそう心根に響きます。

「光り」は、何かと相まった時、あるいは何かと重なりあう時、そして、影や光を隠してしまうものと共にあるときにより一層、その本質を働かせ、輝きを増すものなのでしょう。

太陽の力が静かになり、光と影の世界をより印象的に描くのが、冬という季節の醍醐味。

暖かくすることを忘れずに、冬の夜道を歩けば、凛とした空気の冷たさのなかにも、温もり、そして尊さが伝わってくることでしょう。

樅の木の祝い松

十二月は、冬至、クリスマス、お正月のしたくと続きます。
古くからある習わしの中でも、注目しているのが「祝い松」。

「拝み松」「飾り松」などとも呼ばれ、大きく分けると門松の一つといってもよいでしょう。基本は家の中に飾るもので、年神さまへのお供物、依代としての役割もあります。

今年の「祝い松」の軸には樅の大枝を。
隈笹、黄金色の竹、花稲穂、縁起のよい南天の実玉を添えました。

現代に生きる私たちが、この祝い松を見て「クリスマスツリーみたい」と思うところに文化や慣習の流れてきた道が現れています。

冬至、そしてクリスマスの祝祭に、お正月の神さまをお迎えするしつらいに。
どなたにとっても十二月がどうぞよい日々となりますように。

餅花と隈笹

早々と葉を散らした、木の枝を整え、白餅を結びます。
冬になり白い縁取りのあらわれた隈笹と新米の花稲穂を添えて。
来年もよい実りがありますようにと、願いを込め花に見立てた予祝のしつらいです。

鬼柚に千両

すっくと背を伸ばした千両も、鈴なりに色づいてきました。
大きな鬼柚と合わせて、縁起のよいものを掛け合わせに。

冬至の日に近づくにつれて、鎮まっていく太陽の光にあらためて感謝を込めます。

柚子の明るい色は太陽に見立てたもの。
見かけによらず、持ち上げるとかろみのある鬼柚の、どっしりとした姿と相反する軽やかさ。
繰り返し大きな変化が訪れる今の時代に、二つの力を授かるために。
十二月、冬至のしつらいに。

新木と初椿

新木は、新年を迎えるためのお供物です。
古くから、一年の暮らしを支えた薪木に一年の十二ヶ月を表す「12」の数字などを書きます。
今回は半紙で包み、稲穂と初椿を結んで華やかに。

どうぞ新しい年一年が、無事で豊かな実りの現れる年でありますように。


第五十話「一月 小寒 大寒」へ
一年で最も寒い季節、草花の眠る月がやってきます。
ひときわ香りを放つもの、鮮やかなもの。
季節のめぐりに合わせ、私たちも冬籠りの中で、あらためてしっかり自分のリズムを整えていきます。

広田千悦子

文筆家。日本の文化・歳時記研究家。日本家屋スタジオ「秋谷四季」(神奈川県)などで季節のしつらい教室を行う。ロングセラー『おうちで楽しむ にほんの行事』(技術評論社)、『鳩居堂の歳時記』(主婦の友社)ほか、著書は20冊を超える。

広田千悦子チャンネル(Youtube)

写真=広田行正