第五十話 「一月 小寒 大寒」
2021.01.05
暮life
雪景色
新しい年がはじまりました。
各地では早々と雪の日も多く、北国や、高地などの山々はしっかり銀白色に染まっています。
ここ数年、暖かな年末年始に慣れ親しんできたために凍えるような寒さがとても新鮮です。
ふうーっと吐く息はもちろん白く、何よりは手に現れる感覚ーー
冷たく乾いた空気に晒されて、かじかんで縮こまるような痛いような、そして懐かしいような、冬の手の感触を味わっています。
二十四節気の小寒を迎えて、「寒」の季節の幕開けとなります。
寒は、節分の前の立春がくるまでの間の約ひと月ほど。
春の訪れを迎えるための工夫やしたくをしながら、冬籠りの季節をうけとめて、力をあたためていきたいところです。
ちなみに「籠る」ということばは日本の行事や、慣習、そして神話の中にもよく見られることばです。
冬籠りをはじめ、たとえば赤ちゃんができたことを「身籠る」といいます。
祭の前には、神職や参加者の「神事の籠り」
出産の時の産屋への「籠り」
田植えを行う人が、
菖蒲や蓬を葺いた家に一晩過ごす「葺き籠り」
大晦日の「除夜の籠り」
立春の前の「節分籠り」などなど。
そして、神話の中では天照大神が天岩戸に籠ります。
日本人は、人間だけでなく、自然界に現れる現象などにも「こもり」ということばを使います。
稲が籾(もみ)を結ぶことも、籠りと見立てたりします。
さまざまな籠りから伝わってくるのは、何か隔てられた場所にとどまる時を持つことで清められ、成長する、あるいは別のものに生まれ変わる、再生のイメージ。
私たちは、大晦日という一つの大きな籠りを越えて、草木花や、他のいのちとともに冬籠りをしながら、かつてなかったほどの大きな変化の中で、新しく生まれ変わるための力を蓄えている。
そんな時節を迎えているのだと思います。
拝み松
東北や中部の山間などで見られた古くから伝わるお正月飾りのかたちの一つ、拝み松です。
数年前から、個人的にクリスマスツリーを思わせるような独特な飾りの虜です。
拝み松、祝い松など、名もさまざまですが、一本立てることでまさに依代の木。
家の中に祭の場ができます。
今年は、大きな松の枝との出会いが叶いました。
生活の道具であると同時に祝祭の道具でもあった臼に立て、聖なる色を表す白色の餅花を添えて、精麻の鮑結びで年神とのご縁をつなぎ、結びました。
餅飾り
ふだん使っている仕事の道具にもお正月の飾りをします。
小さな丸餅にしめ縄を結んで、お供えします。
一年働いてくれてありがとう、新しい年も一緒にはたらいてくださいね、と願いを込めるもの。
今年は時節の草や花、実も一緒に添えて華やかに。
右回りに
紅葉した野薔薇の葉
黄色の万両、雪柳の冬葉
赤色の万両と葉
餅飾り
家を支える要の柱にも餅飾りを添えて。
ふだんは見えない、目立たないものの力に対しても心働かせる、力を忘れずにいられますように。
餅飾りには、山茶花の小さな可愛らしい残花、実りへの思いを込めて稲穂、大きな難に見えるものを転換する力のある南天の葉を。
七草の束
一月七日の七草に。
七草の草束にして、まずは丸三宝に入れ、感謝を込めて。
冬の間、力を貯えて、大地から顔をだした新しい芽をいただくのが元来の七草ですが、今年は寒い冬というのに、庭の草木は意外と元気。
ふさふさと緑を保っています。
新しい芽というよりは、過ぎていった年と、新しい年の力を紡いだ草の力をいただくことに。
南天萩
蘩蔞(はこべ)
元の証拠(げんのしょうこ)
明日葉
三つ葉
菊花
蓬
の七草となりました。
さっと茹でて、細かく切り、さらさらの粥に入れて七草粥にしたいと思います。
棒餅
関西の方に見られる棒状の餅を今年は鏡餅にしました。
赤い色の餅は縁起のよい海老の餅。
緑色の餅は蓬の餅。
三宝に日陰蔓をたっぷりと敷いてしめ縄で結び橙を乗せて。
11日が鏡開きと暦にはありますが、元々は地域や、家々によりその日は異なるものでした。
自然の餅ほど、意外とカビが生えやすいものですから塩梅を見て、その前に下ろしていただいてもよいのです。
祈りのかたちも、神さまと一緒にいただくタイミングもこれだけ多様な暮らしがある中では、それぞれのスタイルで。
どんなことを願い祈り、どんな時を過ごすのかを何より大事にできればと思います。
第五十一話「二月 立春 雨水」へ
いよいよ、迎春、新しい春がやってきます。
寒さのピークでもある場合が多いけれど、ここが底。
もう一つの一陽来復です。梅の蕾がそろりそろりと緩みます。
広田千悦子
文筆家。日本の文化・歳時記研究家。日本家屋スタジオ「秋谷四季」(神奈川県)などで季節のしつらい教室を行う。ロングセラー『おうちで楽しむ にほんの行事』(技術評論社)、『鳩居堂の歳時記』(主婦の友社)ほか、著書は20冊を超える。
写真=広田行正
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