花の旅人

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〈北海道ガーデン街道 vol.3 初夏編〉第四話 蝦夷梅雨と新緑の「真鍋庭園」

2019.08.23

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アザレア ‘ブラジル’

十勝ヒルズから車で15分、この日の最後に訪ねたのが「真鍋庭園」です。
朝には弱かった雨がだんだんと強まる中、園主である眞鍋憲太郎さんが一緒に園内を回ってくださいました。

気象学上では「北海道に梅雨はない」とのことですが、年によっては夏前に雨が続くことがあり、それを北海道では「蝦夷梅雨(えぞつゆ)」と呼んでいます。
まさに私が訪ねたのが蝦夷梅雨の日。前日まで気温が高く、植物の水枯れが心配されていたところに降った雨だったとか。
撮影するにはとても難しい状況でしたが、植物にとっては恵の雨だったようで、ぐんぐんと水を吸い込んで植物もホッとしているはず、と真鍋さん。

プンゲンストウヒ ‘メイゴールド’

プンゲンストウヒ

春と夏の谷間に北海道を訪ねたのは、眞鍋さんからこの時季が最もドラマティックに景色が変化するタイミングと伺っていたから。特にはっきりとわかるのが針葉樹の葉色で、濃いグリーンの葉先が淡い黄緑になっているのが見て取れます。写真のプンゲンストウヒ’メイゴールド’は5月にまるで金色のような新芽が出ることから名付けれた品種です。(北海道は気候の違いにより6月)
新芽の淡い色は日を追うごとに濃いグリーンに変化してしまうので、ユニークな葉色のコントラストを見ることができるのは、この時季だけなのです。

プンゲンストウヒ ‘ホプシー’

こちらのプンゲンストウヒ’ホプシー’は数万種存在すると言われているコニファー(針葉樹)の中でも最も美しいと言われる品種で、成長がとても遅く、一年で約10センチ程度しか伸びないため、とても高価。
‘ホプシー’の魅力である新芽の青白く見える部分は松脂によるもので、台風のような強い雨風に当たって松脂が消えなければ、木全体が青白いままだそうです。

プンゲンストウヒ ‘コンパクタ’

真鍋庭園には貴重なプンゲンストウヒのコレクションをはじめ、モミやビャクシンなど、針葉樹類だけでも約300種類。そのほかの樹種を合わせると、なんと900種類にも及ぶ品種が植樹されています。
膨大な樹木の品種を一同に集め、それらがより引き立てあい、美しく見える庭園として価値を極めているのが、日本一の針葉樹庭園と呼ばれる所以です。

芝生

コニファーを主体に植栽されたガーデンの初夏は新芽が織りなす、鮮やかな景色が広がっています。そして、樹木の色合いをつなぐ役目をしているのが、青々とした芝生。
美しく手入れされた芝生は多くの場合立ち入り禁止であることが多い中、真鍋庭園ではこの芝生が園路です。
端まできっちりと刈り込まれ、ふかふかの感触が心地よい西洋芝の園路は、たゆまぬお手入れあってこその、とても贅沢なものです。

園内中ほどに植栽されているセイヨウシロヤナギ ‘トリステス’の周囲にも美しい芝生が広がっています。ゆったりとした椅子が置かれていて、ご常連の方々は本を読んだり、食事をしたりと思い思いの時間を過ごされるとか。

オオベニウツギ ‘ソニック ブルーム ピンク’

大紅空木(オオベニウツギ)

初夏、真鍋庭園が新緑に染まる中、この時季に一斉に開花するのがオオベニウツギ(大紅空木)です。
このオオベニウツギとは日本原産のタニウツギの仲間で、主に赤やピンクの花が咲くことからこの名が付いた、スイカズラ科タニウツギ属の落葉低木。
ちなみにウツギとは「空木」と書き、幹の内部がストローのように空洞になっていることからこの名が付いた植物ですが、アジサイ科のノリカウツギやスイカズラ科のハコネウツギといったように、科や属に区別なく〇〇ウツギと付いたさまざまなウツギが存在しています。

オオベニウツギ ‘ナオミ キャンベル’

オオベニウツギは耐寒、耐暑性があるのでとても育てやすく、花が少なくなる初夏に鮮やかな花と葉が楽しめることから、ヨーロッパやアメリカでブームになった花木ですが、なぜか東京ではほとんど見かけることがありません。

オオベニウツギ ‘オーレオ バリエガータ’

オオベニウツギ ‘ブラック アンド ホワイト’

オオベニウツギは花だけではなく、斑入りをはじめ、黒、ライムグリーンなど葉色が豊富でこんもりと茂るため、カラーリーフとしてもガーデンのアクセントになる、鑑賞期間の長さが魅力。
特に写真の’ブラック アンド ホワイト’は2017年にヨーロッパで発表された最新品種で、銅葉(銅のように赤黒く光沢のある葉)に白い花が咲く、オオベニウツギ類の中で初めての品種です。
ちなみに銅葉の植物に咲く花はほぼ赤味のある花になるので、とても珍しい植物とも言えます。

オオベニウツギ ‘ワイン アンド ローゼス(アレクサンドラ)’

近くで見ても、遠目に見てもとても華やか。グリーンが主体のガーデンでひときわ目立つ存在がオオベニウツギです。

アザレア ‘パーシル’

アザレア

最後にご紹介するのはアザレア。この記事の一枚目にある、朱赤の花も同じくアザレアです。
アザレアとはツツジ、シャクナゲと同じツツジ科の仲間で、西洋ツツジとも呼ばれ、コレクションしている方がいるほど、多彩な花色と花型が存在する花木です。
真鍋庭園に植栽されている12種のアザレアは街中でよく見かけるツツジに花の形こそ似ていますが、ヨーロッパの雰囲気を感じる、あか抜けた印象のものばかり。
アザレアはヨーロッパで品種改良がすすみ、とても人気のある花ですが、これはメディチ家が美しく、大きく、香りの良いアザレアを作出することを奨励したのがきっかけとも言われています。

段々と濃くなる緑と鮮やかな花々のコントラストが美しいこの景色は、日ごとに姿を変え、やがてドラマティックに一遍する紅葉の季節が待っています。
次はひと足早くやって来る、真鍋庭園の秋を訪ねたいと思います。


□関連記事
〈北海道ガーデン街道 vol.2 秋編〉第三話 森林浴を楽しむ秋の庭「真鍋庭園」
〈北海道ガーデン街道 vol.1〉第四話 日本一の針葉樹ガーデン「真鍋庭園」

真鍋庭園

北海道帯広市稲田町東2-6

http://www.manabegarden.jp/
開園期間:4月下旬~11月下旬
冬季休業期間があります。営業時間、入館料などの詳細につきましては真鍋庭園のWEBサイトをご覧ください。