花の旅人

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〈北海道ガーデン街道 vol.1〉第四話 日本一の針葉樹ガーデン「真鍋庭園」

2018.08.11

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第三話の十勝ヒルズから車で約30分、帯広の中心部に位置するのが日本一の針葉樹(コニファー)ガーデン「真鍋庭園」です。

25,000坪の敷地の中に「日本庭園」「ヨーロッパガーデン」「風景式庭園」など個性豊かな庭を回遊しながら楽しめる、ガーデン街道の中では珍しい、樹木を集めた庭園です。

北海道ガーデン街道の最も歴史ある庭

こちらの庭園の魅力は何と言っても針葉樹を中心とした珍しい樹木のコレクション。
その数は年々増え続け、現在は数千種類に及ぶとか。ただ集めるだけではなく、木々の育ち方を観察し、北海道の厳しい気候にふさわしいかを研究する場でもあるため、大切に管理・育成されています。
象徴でもある、葉色に金、銀、グレー、赤、青などさまざまな色のニュアンスがある針葉樹や、色とりどりの落葉樹、開拓以前から残る古木など樹木のユニークさは「真鍋庭園」ならではの見どころです。

園内に一歩足を踏み入れると、庭園というより、そこは森。
歴史とともに育ってきた樹木の大きさと密度に圧倒されます。

園路を進んでいくと、赤い屋根の可愛らしい建物が見えてきます。こちらはオーストリアのチロルハウスをモチーフにした、赤屋根の家と呼ばれるもの。「真鍋庭園」のシンボルのような存在です。

※限られた時間内で散策される方のために、所要時間別に3つのモデルコースが用意されています。
30分・約800mのエゾリスコース(こちらは車椅子の方にも対応している階段や飛び石が無い散策路です)。その他、45分・約1200mのキタキツネコース、60分・約1500mのノウサギコースがありますが、もちろんご自分なりの楽しみかたで!

「ドワーフ ガーデン」はゆっくりと成長する植物を集めてデザインされたエリア。
あまり大きくならず、剪定の手間がかかりづらい植物を探している方向きのモデルガーデンです。

広大な園内にはいくつもの水辺があります。池にはニジマスが泳ぎ、野生のカモが住み着いているそう。

木の実をついばむ、リスがあちこちに。

大きな西洋ヤナギと手入れの行き届いた美しい芝生が広がる、芝生広場。

北海道ならではの庭をつくる

五代目当主の眞鍋憲太郎さんと園内を一緒に巡りながらお話を伺いました。

花毎スタッフI:

まず「真鍋庭園」の歴史について教えてください。

眞鍋さん:

開拓世代で5代目、緑の仕事をするようになって4代目、庭を作ってからは3世代目になります。
明治時代に四国から先祖が開拓に入り、農業をしていましたが、農地解放で畑の多くを手放すことになり、その頃から林業用の山林苗を作り始めました。今もその苗は作り続けています。そういった植木農家の他にも造園業、林業と緑にかかわる仕事をしています。

花毎スタッフI:

ガーデンという形になったのはどのような経緯があったのでしょうか。

眞鍋さん:

花が主体のガーデンが多い中、うちは畑で生産している木のショーガーデンなんです。
和風だったら、洋風だったらこんな風に使ってくださいという…
昭和30~40年代はこういった変わった木が売れなくて、造園屋さんもこんなのどうやって植えたらいいかわからない、設計屋さんにもどうやって設計したらいいかわからないと言われたので、先々代が日本に出回っていない木を使用事例として作り始めたのが始まりです。

眞鍋さん:

ガーデン自体は60~70年前に業者さん向けにご案内していたんですが、1966年に観光客でも巡れるよう回遊式の園路に造り替え、2016年に一般公開50周年を迎えました。ガーデンもどんどん拡張していっています。
ここ以外にも畑が12か所あって全部で80ヘクタール。カエデだけ、ヒバだけ、とそこで生産しているものをどんな風に使ったらいいかと、試している場所なんです。
毎年海外から30~50種類入ってくるので、それらがどんな風に育つか植えてみて、お客さんの反応を見ながら挿し木をして増やしています。そんなわけでどんどん広がっているのですが、現状の25000坪で管理が手いっぱい。広げるにも限度があり、ここ最近は長らく植わっていたものを抜いて植え替えたり、12mぐらいになった(プンゲンストウヒ)ホプシーなども芝生が日影になってしまうので、切り倒して3mぐらいのに入れ替えたりと更新をしながらやっています。

花毎スタッフI:

今の天気(取材時は7月上旬)からは全く想像がつかないのですが、冬の閉園期間から春の開園まではどのようにこちらの庭園を管理されているのでしょうか。

眞鍋さん:

毎年4月10日ぐらいに雪解けになりますが、ここは雪の量は少ないんですが、寒くて全部は解けきらないんです。
でも毎年ゴールデンウィークまでにオープンしなくてはいけないので、オープンまでの2週間で落ち葉をかき集めて畑に捨てに行きます。ここは落葉樹も多くて、落ち葉の量が4トントラック20台分ぐらいになります。
落ち葉は機械では取れないので全部手作業なんです。それを畑に持っていって、機械で混ぜて肥料などに使います。

花毎スタッフI:

(帯広に)雪はあまり降らないんですね。今日は北海道とは思えないぐらいの暑さですが、帯広の天気の特徴はどのような感じなのでしょうか。

眞鍋さん:

帯広は雪が積もっても膝ぐらいから1mぐらい。山に風があたってとても寒いです。冬は-25度から-30度になります。札幌とはだいぶ気候が違うんです。かといって釧路とも違って夏は今日のように30度を超える日も。5月、6月にはフェーン現象で突然熱くなり、夜は冷えるといった地理的な要因もあって、植物の適応を見極める必要があります。

花毎スタッフI:

植物はその寒さに耐えれられるのですか。

眞鍋さん:

種類にもよりますが、ヒマラヤ杉はここでは無理。例えばゴールドクレストなどは仙台ぐらいまでの緯度が限界ですが、帯広でも鹿児島でも大丈夫な植物もあります。

花毎スタッフI:

園内を回って気づいたのですが、所々に遊び心のあるものが置いてありますが…

眞鍋さん:

私が作ろうと思って作ったものもありますし、スタッフが勝手に…たとえば台風で折れた木を河童にしてみたり、柳の木にツリーハウスを作っちゃったり、可笑しい人が多いので(笑)

花毎スタッフI:

モンスターガーデンも?

眞鍋さん:

それは私が作りました(笑)庭の中に所々元気がないように見える木があるのですが、あれはもともと自然に下がる(枝垂れる)品種で、使われ方が限定されてしまっていたのですが、動物っぽくも見えるので2016年の50周年を記念して50体のモンスターがいる庭をつくりました。もしかしたら動物園や商業施設などでトピアリー的に植えてくれるかもしれないと(笑)。

例えばここにコッツウォルズみたいな庭を作っても似たものにはなりますが、オリジナルは超えられないんです。
我々の先祖が本州から百何十年か前に開拓に入ってきて、こういう暮らしが始まっても、本州の瓦屋根は帯広の冬には耐えられず割れてしまって馴染まないし、日本庭園をそのまま取り入れるというのも(気候が違うので)芸が無い。
海外の真似をした庭も面白みがないので、北海道の新しい庭のスタイルというのを考え出したいのです。

夕暮れの「リバース ボーダー ガーデン」。同じ属種の色違いの品種を向い合せに植えた、さまざまな樹種を扱う「真鍋庭園」ならではの庭。 南側は銅葉(赤~黒っぽい色の葉)と黄金葉(黄色味を帯びた葉)を、北側は花色の違う低木と秋の紅葉が違う高木を左右対称に植えた整形式庭園と呼ばれるスタイルです。

今回の北海道ガーデン街道を取材するにあたって、各ガーデンをご紹介いただいたのが眞鍋憲太郎さんです。
あのガーデンはあの人に聞けばいい…打てば響く、そんな風にいつも的確なアドバイスでこの企画を一緒に作り上げていただきました。
お話を伺ったガーデナーの方々からも北海道の庭園文化を五代に渡って築いた、眞鍋家と真鍋庭園のみならず、ガーデン街道を盛り上げていこうとされる、憲太郎さんの気概あるお人柄への尊敬の念がひしひしと伝わってきました。

こんなにお世話になっておきながら、この場所を訪れるまで花ではなくて木が主役?といぶかしんでいた自分が恥ずかしい限り…
そんな私に、長い年月をかけて育つ樹木を使った庭づくりが一代で成せる業ではないことを、樹木の美しさを、この場所が教えてくれました。

真鍋庭園のパンフレットに添えられた「これが日本か。」の一文が云い得ているように、百数十年に渡って眞鍋家の人々の植物と北海道への思いが伝わってくる、凄みを感じる庭園でした。

第五話はダイナミックな地形を生かした多彩なガーデン「十勝千年の森」へ。


□関連記事
〈北海道ガーデン街道 vol.3 初夏編〉第四話 蝦夷梅雨と新緑の「真鍋庭園」
〈北海道ガーデン街道 vol.2 秋編 〉第三話 森林浴を楽しむ秋の庭「真鍋庭園」

真鍋庭園

北海道帯広市稲田町東2-6
http://www.manabegarden.jp
開園期間:4月下旬~11月下旬
冬季休業期間があります。営業時間、入館料などの詳細につきましては真鍋庭園のWEBサイトをご覧ください。