花の旅人

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〈北海道ガーデン街道 vol.1〉第七話 ドラマの舞台になった庭「風のガーデン」

2018.09.02

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見晴台から望む、ドラマのセットとして使われたグリーンハウス。

第五話の十勝千年の森から車で約100分、新富良野プリンスホテルの一角にたたずむのが「風のガーデン」です。

こちらは2008年に放送された、倉本聡さん脚本のテレビドラマ「風のガーデン」の舞台として誕生した庭。
現在でも撮影に使用された建物が庭の景色となり、ドラマの雰囲気がそのまま残されています。

「風のガーデン」の成り立ちは脚本家の倉本聡さんが上野ファーム*の上野砂由紀さんに、新富良野プリンスのゴルフ場跡地に庭のデザインを依頼したことに始まります。
庭づくりの打合せを重ねるうちに、アイデアが膨らみ、この庭を舞台にしたドラマへと発展しました。

2006年の春から2年間をかけて、365品種、約2万株の花々が植えられ、完成した庭でドラマの収録が行われました。 現在では宿根草を中心に、450種類を超える花々が季節ごとに次々と咲き誇ります。

「風のガーデン」のガーデナーでもあり、北海道ガーデニングマイスターの六条幸乃さんにお話しを伺いました。

花毎スタッフI:

こちらの庭には何種類の花が入っているのでしょうか。

六条さん:

最初は365種類ということだったんですが、3年前ぐらいに数えたら450種類ぐらいになっていました。
割とブルー系のお花が多いんですよ。色の濃いものはあまり入っていなくて、柔らかな色合いのものが多いですね。

うつむくように咲く「カンパニュラ」

アーチに仕立てたハニーサックル。別名スイカズラ。
巻き付いたツルが離れないことから付いた花言葉は「愛の絆」

六条さん:

ナチュラリスティック・ガーデンとは違いますが、園芸品種だけではなくて、山野草的な植物も入れてあるので、森に囲まれた雰囲気にすごく合っていると思います。
この庭ではウエディングも行っていまして、(花が終わってしまいましたが)1週間前にはハニーサックルが満開に咲くこの道を、新婦とお父様が腕を組んで歩いて祭壇に向かうシーンがとても素敵でした。

花毎スタッフI:

お気に入りの場所を教えていただけますか。

六条さん:

イングリッシュガーデンは手前に低く、奥に高いものをもってくるというセオリーがありますが、ここはわざと背の高いものを手前に持って来ています。これはノーティアというマツムシソウなんですけれど、こういう花だとうるさくならないんです。
パーゴラ(つる棚)や柳の仲間のハクロニシキをこの花越しに見る、この位置が私は一番好きです。

花毎スタッフI:

開園当初は20万人ぐらい年間来訪者数あったと聞いています。

六条さん:

オープン当時はすごかったですね。一番最初の年は芝生があったのですが、あまりに多くの人が歩いて芝が全部ダメになってしまいました。
ドラマは植栽をしてから2年目に撮影しましたが、その時はまだ植物が全体的に小さくて、全体的に低かったんです。10年経って、かなり高低差がついて、立体的に見えるようになって、おもしろくなっていると思います。
時期によっても景色が変わって、6月ぐらいですと植物がもっと低くくて向こう側が見渡せるようになっています。

花毎スタッフI:

冬はどうなさるのでしょうか。

六条さん:

10月には初雪が降って、霜が降りるので、霜が降りると植物が傷んでしまうんです。
花はまだあるんですが、お見せするは厳しくなってくるのでクローズします。そしてクローズした翌日に地際で全部切ってしまいます。雪が結構積もります。腰ぐらいまで積もって結構深いです。
GWにオープンしますが、その頃はまだ地面が見えていて、スノードロップやクロッカスといった球根植物がメインで咲く、全く違う景色になります。

薔薇の庭

*提供:風のガーデン(写真は7月中旬)

原種やオールドローズなど約70種類のバラと宿根草を組み合わせたのが「薔薇の庭」。
秋にはバラの実であるローズヒップがたわわに実り、それもこのガーデンの見どころのひとつ。

六条さん:

こちらの「薔薇の庭」では裏がスキー場の山なので鹿も熊もいて、鹿が美味しいから(バラの)蕾を食べちゃうんですよ。
他のローズガーデンでは年に一度しか咲かない原種やオールドローズよりも、繰り返し咲く現代バラを入れる場合が多いと思いますが、ここでは一度しか咲かない原種やオールドローズを多く入れています。
オールドローズの花期は本当に一瞬ですが、繊細で優美な花と素晴らしい香りが魅力ですね。

ゲーテの詩にシューベルトが曲をつけた「野ばら」に歌われている、ヨーロッパの原種系のバラ「ロサ・カニーナ」。秋にはローズヒップがたわわに実る。

倉本聰さんがドラマ「風のガーデン」に登場する、ヒロインの役名にちなんで「ルイの涙」と名付けたバラ。


野の花の散歩道

六条さん:

こちらが「野の花の散歩道」です。今年(2017年)から公開が始まりました。なんというかほぼ野原なんです(笑)。

花毎スタッフI:

でもこんな野原は見たことないです(笑)。

六条さん:

そうなんです。見たことがないんですけど、懐かしい感じがするんです。
これは全部勝手に生えたものではなくて、私たちが植えたものもあれば、自然に生えたものもあって、絶妙なコラボレーションなんです。二年前から植え始めて、毎年姿が変わっていっています。
今年の勢力は去年とはまた違うんですよ。それが本当に面白くて。
最初はいったいどうしたらいいの?という思いだったのですが、それを受け入れた途端に楽になって、今までの庭とは違うものなんだって。植栽はほぼ終わっていて、今後は自然の流れに任せます。
ここにある花は雑草と言ってしまえばそれまでですけど、ひとつひとつの植物を見ていると、それぞれの美しさを改めて感じます。

多くのガーデンでは雑草として抜かれてしまう草藤。
藤の花に似ていることからこの名が。

六条さんがその美しさに改めて気づいたという「ヒメジョオン」

六条さん:

これはノラニンジン。食べる人参が野生化したものとも言われています。

花毎スタッフI:

レースフラワーみたいですね。

六条さん:

すごく可愛いいんです。この辺はニンジンの産地なので、そこからきているのかもしれませんね。

リナリア(姫金魚草)と黄色が響きあう、シナガワハギ(右側の植物)

六条さん:

これはシナガワハギ。言うなれば雑草です。雑草、雑草とみんな言うんですけど、可愛いんですよ。
グラス類は秋になると金色の穂が立ってすごく綺麗なんです。

桂の木の下で庭を見守る、大天使ガブリエルの彫像。(なぜ大天使がここにいるのかはドラマでご確認を!)桂の木は秋になると、焦がしキャラメルのような香ばしい甘い香りがするとか。


「風のガーデン」に着いたのは、午後遅い時刻。小雨が降り出し、前日までの暑さが嘘のような肌寒さ。
でもひと足、この庭に足を踏み入れると、そこには水彩画のような色合いの花々が、ぎゅっと詰まった夢のようなこの庭が……
ひとつひとつの花をいつくしむように説明してくださった六条さんのお話に、雑草という花は無いことをふと思い出しました。

第八話は北海道編の最終回、いつまでも眺めていたい庭「上野ファーム」へ。

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風のガーデン

北海道富良野市中御料(新富良野プリンスホテル内)
https://www.hokkaido-garden.jp/garden02.html
冬季休業期間があります。営業時間、入館料などの詳細につきましては北海道ガーデン街道のWEBサイトをご覧ください。