二十四節気の花絵

イラストレーターの水上多摩江さんが描いた季節の花に合わせた、
二十四節気のお話と花毎だけの花言葉。

第九十七話 霜降の花絵「ダリア」

2022.10.23

life


2022年10月23日から二十四節気は「霜降」に

霜降(そうこう)とは、その字の通り霜が降(お)りる時季を表した秋最後の節気です。
早いもので約2週間後には立冬となり、冬の入り口へと向かいます。

さて、霜は「降(お)りる」と表現しますが、これは雪や雨と違い空から降(ふ)るものではないためです。気温が3度以下の時に発生することが多く、冷やされた目に見えない空気中の水蒸気が地面や植物など、あらゆる物体の上に付着して氷の結晶に変化したものが「霜」と呼ばれます。

日本で最も早く霜が降りるのは北海道の旭川で平年値は10月9日。霜降の時季と近しいのは函館の10月22日となります。都心部では年々遅くなり、東京の初霜が降りる平年値は12月20日となっています。

五色霜林
四字熟語には「霜」が入るものがいくつかありますが、中でも「霜降」の季節感を表した熟語に「五色霜林(ごしきのそうりん)」と、「露往霜来(ろおうそうらい)」という言葉があります。
「五色霜林」とは、霜にあたって鮮やかに色づいた紅葉の景色を表した言葉であり、「露往霜来」は秋の露が過ぎ去った後、霜が降りて冬が到来するという意味で、転じて時の流れの早さをたとえています。
こうした熟語の成り立ちの背景には、細やかに移ろう二十四節気の季節感が込められているのかもしれません。


「ダリア」

□出回り時期:通年(最盛期は9月~10月)
□香り:なし
□学名:Dahlia
□分類:キク科ダリア属
□和名:天竺牡丹(てんじくぼたん)
□英名:Dahlia
□原産地:中央アメリカ

ダリアの歴史
メキシコの高原に自生していたとされるダリアは、15世紀ごろのアステカ帝国で栽培が始まったとされる花です。
ダリアについて最初に具体的な記録を残したのは16世紀後半に薬用植物の研究のために新大陸に渡った最初の学者フランシスコ・エルナンデス・デ・トレドで、既にさまざまな色や大きさの花があったとされています。
その後18世紀後半にメキシコからスペインにダリアの種子が渡り、約半世紀に渡って門外不出の花として秘蔵されていました。同時期にイギリスにもダリアが持ち込まれましたが、当時は育種がうまくいかず枯死してしまったそうです。
19世紀になるとヨーロッパ各地に渡り、八重咲品種が育成されたことでフランスやイギリスでダリアが流行します。19世紀初頭には約100品種程度だったダリアは数十年の後に1000品種以上に増え、フランスではオランダのチューリップバブルに匹敵するようなダリアバブルが起こりました。
現在では2万~3万品種あるとされ、英国王立園芸協会(RHS)には毎年100種前後の品種が登録され続けています。

黒蝶
日本には19世紀半ばにオランダから長崎に持ち込まれとされ、当時は天竺牡丹の名で呼ばれていました。その後、イギリスから塊根(肥大した根)が輸入され、徐々に新品種の育成が盛んになりましたが、昭和の時代には庭植えの花としての需要が多く、切り花は色数も花のサイズも少ない上、扱いの難しい花とされていました。
しかし、1990年、世界的なダリア育種家の鷲沢幸治氏が発表した「黒蝶」が発表されると、ダリアのブームが起こります。
ベルベットのようにマットで、黒味を帯びた赤い大輪の花は今までに類のない、強烈なインパクトのあるダリアだったのです。そこから切り花としてダリアが注目されるようになり、現在ではウェディングブーケにも使われるように。
鷲沢氏はその後も次々と新たな品種を育種し、現在国内で流通しているダリア品種の7割以上を占めています。


花毎の花言葉・ダリア「魅了」

歴史の長い花の花言葉は神話に由来するものが多く存在しますが、なぜかダリアにはそうしたストーリーがありません。
ダリアに最初に付けられたとされる花言葉は「不安定」で、これはフランス革命後の政情が不安定な時代に盛んに栽培されていたことに由来するともいわれています。
また、「移り気」という花言葉もあり、こちらはナポレオンの妃であったジョセフィーヌのエピソードに由来しているようです。
その後、大輪の品種などが増えたこともあってか「華麗」や「気品」といった花言葉も加わりました。

元はメキシコの高原に咲いていた花がヨーロッパに渡り、各地で多くの人を魅了しながらその品種を増やしていったダリア。
人の心を捉えて離さないこの花に「魅了」という花毎の花言葉を託したいと思います。

文・第一園芸 花毎 クリエイティブディレクター 石川恵子

水上多摩江

イラストレーター。
東京イラストレーターズソサエティ会員。書籍や雑誌の装画を多数手掛ける。主な装画作品:江國香織著「薔薇の木 枇杷の木 檸檬の木」集英社、角田光代著「八日目の蝉」中央公論新社、群ようこ「猫と昼寝」角川春樹事務所、東野圭吾「ナミヤ雑貨店の奇跡」角川書店など