二十四節気の花絵

イラストレーターの水上多摩江さんが描いた季節の花に合わせた、
二十四節気のお話と花毎だけの花言葉。

第百十四話 啓蟄の花絵「桜と燕」

2024.03.05

life


2024年3月5日から二十四節気は「啓蟄」に

季節は仲春、春三番目の節気に入りました。
啓蟄とは、冬ごもりしていた虫たちが陽射しの温もりで目覚め、動き出すころを表しています。暦の上のみならず、日が長くなり、温かな日が徐々に増えて春の気配を実感する時季です。


啓蟄の季節感

初雷と春雷
立春のあと初めて鳴る雷が初雷(はつらい/はつがみなり)です。この雷後の数日間は季節外れの陽気になることが多く、啓蟄の時季と重なることから「虫出しの雷」とも呼ばれます。初雷を含め、立春から立夏のころに起こる雷の総称が春雷(しゅんらい)で、寒冷前線が通過する際に発生し、雹(ひょう)が降ることも。

桜の開花日
気象庁の「さくら開花日」の記録を見てみると、東京では1989年以降、4月に入っての開花はなく、更に2013年以降は3月25日以降の開花はありませんでした。
また、東京の桜の開花日は年々早まっていて、2020年、2021年、2023年が3月14日で最速の開花日となっています。


「桜」

□開花時期:1月~5月、9月~11月(品種により異なる)
□香り:あり(一部品種)
□学名:Cerasus (Prunus)
□分類:バラ科サクラ属
□和名:桜
□英名:Cherry blossom
□原産地:北半球の温帯

名前の由来
「サクラ」という名前の由来については諸説あります。
代表的なものは、日本神話に登場する、木花咲耶姫(コノハナサクヤヒメ)の「さくや」が転じたというもの。また、うららかに咲くという意味の「咲麗(さきうらら)」を略したという説なども。また、中村浩氏の著書「植物名の由来*」では「咲く」という言葉と、数が多いことやむらがることを表した「羣(むら)」が合わさったのではないか、という記述が見られます。

*東京書籍(1980年)

品種数
日本の野山に自生している野生種の桜は、ヤマザクラ、オオヤマザクラ、カスミザクラ、オオシマザクラ、マメザクラ、タカネザクラ、チョウジザクラ、エドヒガン、ミヤマザクラ、クマノザクラ*の10種**が基本種とされています。
桜は大きく分けると、これらの野生種とその交雑種、栽培(園芸)品種となり、約300~500類が存在しているとされています。

*2018年に新種として判断された、紀伊半島南部が原産の日本の固有種のサクラ
**カンヒザクラを加え、日本の基本野生種11種とされる場合もあります

バラ科サクラ亜科サクラ属
サクラは前出の通り品種が多く、分類は国や時代によって判断が分かれます。以前の分類では、モモ、ウメ、アンズ、スモモ、アーモンドも含めてサクラ属とされ、Prunus(プルヌス/スモモ属)に属していましたが、新しい分類ではサクラはCerasus(ケラスス/サクラ属)という学名が与えられ、独立した属として扱われるようになりつつあります。


花毎の花言葉・桜「希望」

一般的な桜の花言葉は「精神の美」「よい教育」「優美な女性」、フランスでは「私を忘れないで」、ドイツでは「真実の心を捧げる」などがあります。
「精神の美」や「よい教育」はアメリカ初代大統領のワシントンが子どもの頃、遊んでいる内に切り落としてしまった桜の木を正直に父親に伝えたことに由来し、フランスやドイツでの花言葉は、花は美しいのに、実は酸っぱいことに由来するとも考えらえています。
無数の花がある中で、日本での桜の存在は特別なものです。桜の開花状況がニュースになり、蕾から満開、そして散った花弁までも愛でるなど、もっとも多くのひとに愛されている花といえるのかもしれません。

朝夕に 花待つころは 思ひ寝の 夢のうちにぞ 咲きはじめける  (崇徳院)

〈ずっと花を待っていたら夢の中で咲き始めた〉という、平安時代後期に詠まれた和歌ですが、何かを待ち望む気持ちは古来から変わらないようです。
そこで、桜には「希望」という花言葉を選びました。春に桜がなかったら、春はそれほど待ち遠しい季節ではなかったのかもしれません。


文・第一園芸 花毎 クリエイティブディレクター 石川恵子

水上多摩江

イラストレーター。
東京イラストレーターズソサエティ会員。書籍や雑誌の装画を多数手掛ける。主な装画作品:江國香織著「薔薇の木 枇杷の木 檸檬の木」集英社、角田光代著「八日目の蝉」中央公論新社、群ようこ「猫と昼寝」角川春樹事務所、東野圭吾「ナミヤ雑貨店の奇跡」角川書店など