二十四節気の花絵

イラストレーターの
水上多摩江さんが花毎のために描いた、
二十四節気の花々です。

第七十七話 清明の花絵「八重桜」

2021.04.04

life


2021年4月4日から二十四節気は「清明」に

清明とは物候(生物と気候の変化の関係)の部類に属する節気です。
江戸時代に書かれた、二十四節気の解説書「暦便覧(こよみべんらん)」の清明の項目には「万物発して清浄明潔なれば、此芽は何の草としれる也」とあり、この清浄明潔(せいじょうめいけつ)という言葉を略したのが清明であり、つまり、全ての生きとし生けるものに生命力がみなぎるころを表した節気なのです。

例年通りであれば、清明の始まりはソメイヨシノが東京で満開を迎えるころですが、昨年に続き今年も例年より約2週間も早い開花となりました。
現代では満開の桜が人気ですが、古の人々は桜が移ろう姿を言い表した言葉をいくつも作り出しました。
終盤の桜を表した言葉をいくつか挙げると…

「桜雨」
桜の花を濡らして降る雨のこと。花冷えの言葉もある通り、この時季は急に気温が下がって雨が降ることに由来。

「花筏(はないかだ)」
川面に漂う散った花びらを筏に見立てた言葉。

「桜しべ降る」
花びらが散った後に残った「しべ(蕊)」が雨のように降りしきること。

桜にまつわる言葉だけでも花が咲く前から終わった後まで、挙げきれないほどの数があり、古の人々の花への興味のほどがうかがいしれます。


「八重桜」

□切り花出回り時期:4月
□香り:あり(関山など一部品種)
□学名:Cerasus (Prunus)
□分類:バラ科サクラ属
□和名:桜
□英名:Cherry blossom
□原産地:北半球の温帯

八重桜とは特定の品種ではなく、花弁が多い咲き方をする桜の総称です。
諸説ありますが、ソメイヨシノなど、おおよそ5枚の花弁の桜が一重咲、6枚以上の花びらがある桜を八重咲とすることが多いようです。更に八重咲には咲き方がさまざまあり、主に花弁の数で「半八重咲」「八重咲」「菊咲」といったように分けられています。
また、この他にも一重咲と八重咲の花が一本に咲く『有明(アリアケ)』や『御車返し(ミクルマガエシ)』などの品種もありますので、花の表情の違いを探してみるのも楽しいかと思います。

さて、この八重桜ですが、例年の東京であれば4月の中旬から下旬ごろが見ごろで、さまざまな品種が順に咲きますが、最も奥手な品種の一つに菊咲が重なった咲き方をする「段咲」の『兼六園菊桜(ケンロクエンキクザクラ)』があります。この花弁の数は100~300枚とされ、ぼんぼりのような花を咲かせます。
こうした菊咲の桜は北陸地方に多くみられますが、由来はわかっていません。

荒川堤の五色桜
明治時代の荒川堤(東京都足立区)は多数のさまざまな色の桜が植えられていたことから、五色桜と呼ばれ桜の名所でした。その後、一旦は衰退したものの、現在では「あだち五色桜の散歩みち」として八重桜を含む47種類もの桜が約4.4キロの桜並木として復活しています。

緑と薄黄色の桜
八重桜にはピンクや白だけではなく、緑色の花の『御衣黄(ギョイコウ)』や薄黄色の花の『鬱金(ウコン)』といった品種の桜があります。よく似たこの二つの品種は同じ遺伝子を持ち、わずかな遺伝子の変化で花の形態に変化が出たと考えられています。*
どちらも咲き進むと色が変わり、赤味が増してピンク色へと変化します。
*出典 勝木俊雄著「桜の科学」

桜湯
ご婚礼の席などでお茶代わりに振舞われる桜湯には「お茶を濁す」という言葉を避けるといった意味合いや、桜の華やかさがおめでたい席にふさわしいことなどから、こうした風習が根付いたようです。
桜湯は塩漬けの桜の花にお湯を注いだものですが、この塩漬けの桜の多くは『関山(カンザン)』という八重桜が使われます。

八重桜の名所
茨城県結城市の「日本花の会桜見本園」は約350種の貴重な桜を集めた研究農園。こちらには10色の八重桜が一斉に開花する、珍しい桜並木があります。
他にも開花時期がさまざな品種が多数植えられていて、ほぼ一年中なんらかの桜が咲く、知る人ぞ知る八重桜の名所です。


花毎の花言葉・八重桜〈幸せの兆し〉

桜全体の一般的な花言葉は「精神の美」や「よい教育」ですが、これはワシントンが幼いころ、父親が大切にしていた桜の木を切ってしまったことを正直に伝えたことに由来すると言われています。また、「優美な女性」という花言葉もありますが、こちらは桜の咲く姿をイメージしたものでしょう。

さて、八重桜を花言葉で表すなら桜湯にちなむ言葉がふさわしいように思います。
桜には数百種の品種がありますが、お目出たい席で振舞われる桜湯に使われるのは華やかなピンク色の八重桜です。
一年の中で八重桜が咲く期間は一瞬ともいえますが、その美しさを閉じ込めるように塩漬けにして、誰かの幸福を願う時、お湯の中でもう一度花を開かせます。
それはまるで〈幸せの兆し〉を告げるような、美しい習慣だと思うのです。

文・花毎 クリエイティブディレクター 石川恵子

水上多摩江

イラストレーター。
東京イラストレーターズソサエティ会員。書籍や雑誌の装画を多数手掛ける。主な装画作品:江國香織著「薔薇の木 琵琶湖の木 檸檬の木」集英社、角田光代著「八日目の蝉」中央公論新社、群ようこ「猫と昼寝」角川春樹事務所、東野圭吾「ナミヤ雑貨店の奇跡」角川書店など