夢の花屋

第一園芸のトップデザイナーが、世界中の絶景や名画、自然現象や物質を花で見立てた、
この世でひとつだけの花をあなたに贈る、夢の花屋の開店です。

第十四話「薔薇の花園に見立てる」

2023.04.14

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この世にある美しいものを花に見立てたら──
こんな難問に応えるのは、百戦錬磨のトップデザイナー。
そのままでも美しいものを掛け合わせて魅せる、夢の花屋の第十四話は「薔薇の花園」に見立てたアレンジメントです。
手掛けるのは第一園芸のトップデザイナーであり、フローリスト日本一にも輝いた新井光史。
ここからは花屋の店先でオーダーした花の出来上がりを待つような気持ちでお楽しみください。

5月の横浜イングリッシュガーデン

薔薇の花園

一年中、花屋の店先を彩るバラですが、大きく分けて春と秋に開花シーズンがあります。本州の露地植えでは5月から6月に見ごろを迎え、最も華やかに咲き誇ります。
花の女王と呼ばれるこの花は一鉢でも花園と思えるほど見ごたえがありますが、さまざまな品種を一度に見ることができる日本各地のローズガーデンでは、花に埋もれるような体験ができる頃です。
花毎おすすめのローズガーデンは「薔薇のすすめ」でもお伝えしている東京・練馬の「四季の香ローズガーデン」、毎年訪問してご紹介している「横浜イングリッシュガーデン」、千葉にある首都圏最大級の「京成バラ園」などです。


見立ての舞台裏

「薔薇の花園」のテーマに用意されたのはシックな花色のバラと、それを彩るさまざまな色合いの植物たち。

ベージュ色のバラ「カフェラテ」。他にも茶系のバラには「カフェ」や「カフェオレ」「ラテアート」「カプチーノ」「バリスタ」といった、ユニークな名前が付けられたバラがあります。

さて、ビニールが掛けられたこちらの物体は…

カバーを外すと、枝と草で作られた立体が現れました。

「これはあるローズガーデンで、冬の剪定を行った際に切り取った枝を貰い受け、いつか使おうと保存していた物です。庭植えならではの力強い太い枝や大きなトゲが美しくて、こんなワイルドな部分があるのもバラの魅力ですね」

足元には艶やかに光る漆黒の砂利が覆っています。

最初に挿したのは「ブラックティー」というバラ。1973年に日本で作出された品種で、高温期は朱色が強く、低温期は濃い赤茶色の花に。

次々と花が加えられていきます。

新井が手に持っているのはフランス語で未来という意味を持つ「アヴニール」。ピンク、紫、ベージュが入り混じった複雑な色が魅力的な品種です。

バラだけでなく、色とりどりの葉を加えていきます。


完成、薔薇の花園に見立てたアレンジメント

薔薇の花園に見立てたアレンジメントが完成しました。

「『薔薇の花園』ということで、花の美しさと、それを咲かせるための茎の力強さを表現してみました。ローズガーデンであれば、バラを引き立てる植物も植栽されていると思いましたので、個性的な植物を組み合わせています」

「こちらのアレンジメントで使ったバラは3種類なのですが、色幅があるので色々な種類があるように見えませんか?
合わせた葉は全て色と形が違う姿をしたものを選んでいます。枝垂れるもの、ベージュやシルバーの色を持つもの、一枚の葉に何色もの色があるもの…それぞれが引き立て合って、更に美しさが増すように考えました」

「最もこだわったのが、花を支える土台の部分です。バラの枝は末枯れていますが、それでも強い生命力を感じるのです。何より、ひとつとして同じ形のないトゲの美しさを表現したいと思いました。静と動…いきいきとした花とのコントラストを楽しんでいただきたいですね」

薔薇のブーケ

『薔薇の花園』のスピンオフとして、先ほどのアレンジメントと同じ花材を使ったブーケが登場。

「同じ花材なのに、少し花を加えただけで全く違うイメージになりました。新たにラディッシュという小さなバラや、チョコレート色のレースフラワー(ダウカス)を足して、動きを出しています。きっちりとまとめすぎないことで、それぞれの花の個性が活きてくるように思います」

今回の花材:バラ(カフェラテ、ブラックティー、アヴニール、ラディッシュ)、レースフラワー、アスチルベ、シキミア、アスパラガス、リプサリス、サントリナ、カランコエ、アイビー

もうすぐやってくるバラの季節を目前に控えるこの時季に、ひと足早く、薔薇をテーマにした作品をお届けしました。
5月のバラといえば、色彩の洪水のようなイメージがありますが、新井が選んだバラは全てシックな色でした。自分ならではの色を見つけて表現できるのは、3万以上の品種があるとされる、バラならではでしょう。

さて、残念ながらWEBではバラの繊細な色や香りまではお伝えすることができません…間近で見るバラは格別なひと時です。あなたもこれから見ごろを迎える各地の『薔薇の花園』を見つけにお出かけしてみませんか?


「夢の花屋」ではトップデザイナーならではの、鋭い観察眼や丁寧な仕事が形になる様子まで含めて、お伝えしていきたいと思っております。
こんな見立てが見てみたい…というご希望がございましたら、ぜひメッセージフォームからお便りをお寄せください。

第十五話予告
次回はシェラー・マースが五月の誕生石「エメラルド」に見立てます。
5月14日(金)午前7時に開店予定です。

新井光史 Koji Arai

神戸生まれ。花の生産者としてブラジルへ移住。その後、サンパウロの花屋で働いた経験から、花で表現することの喜びに目覚める。
2008年ジャパンカップ・フラワーデザイン競技会にて優勝、内閣総理大臣賞を受賞し日本一に輝く。2020年Flower Art Awardに保屋松千亜紀(第一園芸)とペアで出場しグランプリを獲得、フランス「アート・フローラル国際コンクール」日本代表となる。2022年FLOWERARTIST EXTENSIONで村上功悦(第一園芸)とペアで出場しグランプリ獲得。
コンペティションのみならず、ウェディングやパーティ装飾、オーダーメイドアレンジメントのご依頼や各種イベントに招致される機会も多く、国内外におけるデモンストレーションやワークショップなど、日本を代表するフラワーデザイナーの一人として、幅広く活動している。
著書に『The Eternal Flower』(StichtingKunstboek)、『花の辞典』『花の本』(雷鳥社)『季節の言葉を表現するフラワーデザイン』(誠文堂新光社)などがある。