二十四節気の花絵

イラストレーターの水上多摩江さんが描いた季節の花に合わせた、
二十四節気のお話と花毎だけの花言葉。

第九十話 啓蟄の花絵「ラナンキュラス」

2022.03.05

life

2022年3月5日から二十四節気は「啓蟄(けいちつ)」に

啓蟄とは、蟄居していた虫たちが陽射しの温もりで目覚め、動き出すころを表した節気です。
江戸時代に書かれた二十四節気の解説書、暦便覧には「陽気地中にうごき、ちぢまる虫、穴をひらき出れば也」とあります。

南北に長い日本では寒暖の差がさまざまですが、この時季の東京近郊は明らかに日の長さや陽射しにはっきりと変化が現れます。
草花や木々の芽が動き出し、ここからいきものの動きが一気に活発になって、誰もが春の到来を感じ始めるころです。

立春や春分などの有名な節気と比べると、啓蟄は目立った行事もないため、知名度が低い節気ですが、この時季ならではの庭仕事に「菰(こも)はずし」があります。
菰とは、藁(わら)を編んで作った「むしろ」のことで、松の幹に巻き付けて、マツクイムシやマツカレハといった松に付く害虫を捕獲するための仕掛です。
江戸時代のころより行われている菰巻きは冬場の日本庭園などで見かける庭の風物詩で、その時季も暦の上の冬の始まりである立冬(11月7日ごろ)から虫が動き出す啓蟄(3月5日ごろ)まで、という季節の趣があるものです。しかし、最近では効果が無いという研究もあり、菰巻きを行わない場合もあるようです。
*菰巻については「庭の中の人」でもご紹介しています。


「ラナンキュラス」

□出回り時期:12月~4月
□香り:なし (一部香る品種有り)
□学名:Ranunculus asiaticus
□分類:キンポウゲ科キンポウゲ(ラナンキュラス)属
□和名:花金鳳花(はなきんぽうげ)
□英名:Ranunculus
□原産地:ヨーロッパ、西アジア、地中海沿岸

アネモネクレマチスクリスマスローズ秋明菊(シュウメイギク)梅花藻(バイカモ)などと同じ、キンポウゲ科の植物です。
カエルが好む水辺に咲くという説や、葉の形がカエルの足に似ているからという説から、ラテン語のrana=カエル、に由来するこの名が付きました。

ラナンキュラスの歴史

13世紀半ば、フランスのルイ九世が十字軍のエジプトへの遠征から帰国する際に、母であるブランシュ・ド・カスティーユのために原種のラナンキュラスを持ち帰ったのが西洋諸国に広まるきっかけになったという説があります。
また、トルコでは園芸に熱中していたメフメット2世(在位1444-1446年、1451-1481年)が愛好し、ラナンキュラスで庭を埋め尽くしていたそうです。
16世紀になると、トルコの宮廷で改良されたトルコ(ターバン)系の品種群がヨーロッパに持ち込まれますが、まだこの時代には注目される花ではありませんでした。
その後18世紀初めになると、再びトルコからヨーロッパに現在の園芸品種の基となるペルシア系の品種が渡り、オランダで品種改良が進みます。これらがイギリスに伝わると大ブームとなり、イギリスで1,000を超える品種が栽培されましたが、徐々に人気は衰えて19世紀には半数近くまで品種が減りました。

春ならではの人気の花

日本には明治時代中期に渡来しましたが、この時の花は小さく花弁も少ない花で、目立つ存在ではなかったようです。1960年代になると花弁の数が多い、八重咲で巨大輪のラナンキュラスが出回るようになりますが、1990年代になっても赤、黄、白といった単色しかなく、チューリップの人気に隠れているような存在でした。
その後2000年代に入るとニュアンスカラーの品種が出始め、現在では300を超える品種の花が出回るようになりました。
現在では春を告げる人気の花となり、白・黄・赤・ピンク・オレンジ・紫・緑に加え、2色以上のグラデーションや、花弁の縁が色づいたもの、ワックスを掛けたようなツヤがあるものなど、色・質感・花のサイズなどバリエーションがとても豊富な花へと変化を遂げています。
*最近人気の品種については旬花百科 第十一話 「ラナンキュラス」でご紹介しています。


花毎の花言葉・ラナンキュラス「千のしあわせ」

艶やかな花弁が華やかなことから「魅力的」「光輝を放つ」といった花言葉や、幾重にも重なる花弁が素晴らしいことから17世紀ヨーロッパで「自然の傑作」と呼ばれたことに由来する「名声」「名誉」がラナンキュラスの一般的な花言葉です。

ラナンキュラスの花弁は多いもので250枚近くが重なり、ひとつの花になっています。この花弁の多さやカラーバリエーション、花姿、そして、春らしい瑞々しさ…ありそうでない、多くの魅力が集まっているのがラナンキュラスではないでしょうか。
この多幸感があふれる春の花に「千のしあわせ」という花言葉を託したいと思います。

 

文・第一園芸 花毎 クリエイティブディレクター 石川恵子

水上多摩江

イラストレーター。
東京イラストレーターズソサエティ会員。書籍や雑誌の装画を多数手掛ける。主な装画作品:江國香織著「薔薇の木 琵琶湖の木 檸檬の木」集英社、角田光代著「八日目の蝉」中央公論新社、群ようこ「猫と昼寝」角川春樹事務所、東野圭吾「ナミヤ雑貨店の奇跡」角川書店など